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普通の味(@帯広競馬場のカレースパゲッティ)

帯広の8月は、もう夏ではない。
たしかに、昼間は太陽が燦々と照らし、気温も25度を超えていた。サイクリングを楽しんだあと、僕のTシャツはびしょ濡れになっていた。
だから、夕暮れの競馬場で震えることになるだなんて、まったく想定していなかった。

夏休みの旅行は馬を追いかける旅にしようと思っていた。その最終目的地が、ここだ。ばん馬がレースをする世界で唯一の場所、それが帯広競馬場だ。それは駅からバスで10分ほどのところにある。雄大な体つきの馬たちが、1トンにも及ぶソリを引き、砂道をゆっくり、ゆっくり走っていく。その雄大さに、ただただ僕は胸を打たれた。
また、この日はJRAからジョッキーもかけつけ、ファンサービスや模擬レースに精を出していた。月曜日とは思えないほど、この場所は活気にあふれている。

そんな中で、僕は予想外の冷えに面食らっていた。そう言えば、もう18時を過ぎているではないか。次のレースのことを考える前に、まずは自分の体を温めることをしなければ。
ということで、食堂にたどり着いた。競馬場内ある、小さな憩いの場。券売機を眺める。メニューのほとんどは、そばとうどんとラーメンだった。丼ものは少ない。
うーん、せっかくこういう場に来たのだから、やはり「この場所ならでは…」と呼べるものを食したい。何か無いだろうか…。

あった。いわゆる麺ものであるが、あまり聞いたことがない名称だった。想像できないのならば、自分の目で確かめる。それが記者としてのあるべき姿だ。迷い無く購入した。

出てきた実物を見て、僕はガッカリした。茹でられたスパゲッティーの上に、特徴の無いカレーのルーがかけられているだった。そのルーに手作り感を抱けなかったのも、寂しさを倍増させた。唯一の救いは、湯気がもうもうと立ち上っており、見るからに温かそうだった点だ。
はあ。所詮そんなもんか…安いし仕方がない…。

一口食べた。予想通りの、普通の味だった。
でも、なぜか、そこに美味しさがあった。

矛盾している。それは頭で理解していた。でも、何事もなかったかのように全て平らげ、僕は再び鉄火場へと舞い戻ることにした。

それはもう、ずいぶん前の思い出である。
なのになぜか、僕は今も家でカレースパゲッティをつくっている。近所の業務スーパーで買った安いレトルトカレーと500グラム・89円で売っている麺を茹で、双方が熱々のうちに絡めて食べる。そんなことを繰り返していた。
あの地のカレースパゲッティーに近づけるべく、試行錯誤を繰り返した。味は違っているかもしれない。でも、カレーと麺が丁度よい熱を保っていたとき、懐かしさが込み上げて来た。

それを食べているとき、僕は考える。
素晴らしい食材や調理器具を揃え、確かな技術で素材を活かす。その要素が揃えば「美味しい」になる。だが、帯広競馬場のカレースパゲッティはその流れに全て反している。なのに、双方の結果は一致している。

「美味しい」とは何か? 少し茶色に染まった皿には、もう空っぽで何もない。だから、この矛盾は矛盾のままで、大切にしていけばいいのではないだろうか

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和良 拓馬
どうもです。このサポートの力を僕の馬券術でウン倍にしてやるぜ(してやるとは言っていない)