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悲しみのあるところ

助けを呼ぶための声は
次々とかき消され
いつしか叫ぶことを忘れてしまった

痛んだ傷口は赤い血を流し続け
優しい仮面に
傷は深くえぐられる

過酷な記憶は
すべてを麻痺させ
真実も嘘も
あいまいな日々を繰り広げていく

涙も雨も
皮膚をつたう感覚はどこまでも痛む

痛めば痛んだだけ
楽になれるような気がしていた

苦しんだ分だけ
優しく強くなるという
遠い国の物語を読みながら

そんな風にはなれなくていいから
この世界からどこかへ連れ去ってほしいと
願っていた

雨に打たれたまま
消えることができたならと

はだしのまま立ち尽くしていた
あの雨の日

私を覆い尽くしていた悲しみは
いつのまにか遠ざかり
思い出というアルバムに姿を変える

立ちすくんだままの私が
こちらを見ている

静かに「いってらっしゃい」と
雨のなか
小さな優しい声がする


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