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書籍『メタバース進化論』は想像力を刺激する良書だ
メタバースが話題になるようになって結構立つが、日常生活の場面でその言葉を聞くことは少ない。自分がよくメタバースという言葉に遭遇する場面は、企業がメタバースへの投資を考えている、とか、メタバースについてなにをどうしたいのか結局よくわからない謎めいた団体ができたとか、そういうものばかりだ。実際に、メタバース的な世界で暮らす人々は一体何を体験し、何を考えているのだろうか。
ちなみに、巷のメタバース関連団体に、団体の目的や、メタバースをどうとらえているか、具体的な活動内容といったものを質問した記事がある。まとめると、とりあえず勉強会とかしていきます、みたいなことがまだまだ多いようだ。
よくわからないまま、大人たちが騒いでいたり、マーケットが動いたりする様子は、正直滑稽に感じられることも少なくない。メタバース関連銘柄〇選みたいな、ネット記事も乱立している。
こういうのを馬鹿にするのは簡単だが、理にさとい大人であっても今はそんな段階が精一杯だ、というのが、メタバースというもののおかれている現状なのだろう。まあ、すぐに徒党を組んだりして影響力を持ちたがるような、ある種の大人ムーブ的行動が笑いどころである点には違いはないのだが、専門知識やスキルを持たない一般人である自分のような人間ができることも、こういうのと大して変わらない、ということもまた事実だ。
自分の身の丈を考えた場合、今メタバースというものについて、何をできておくべきなんだろう。それを考えると、現状では、とりあえず勉強してそれっぽいことを語れるようになることで精いっぱいだろう、というところなのではないかと思う。
そういう観点から、今おすすめな書籍が、バーチャル美少女ねむ著、『メタバース進化論――仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界』(2022)だ。
本書は、2017年からバーチャル世界で美少女アイドルとして活動しているねむ氏が「メタバース原住民」としての自らの体験と、2021年に実施した「ソーシャルVR国勢調査2021」の調査結果を基礎として、今のところメタバース的なものに最も近いであろうソーシャルVRのリアルを概説し、そこから見える展望を語る、といった内容となっている。
未来の可能性として何を見るかは、人それぞれだ。それについては、多くの人が想像力を働かせて、色々好き勝手なことを言うのがむしろ望ましいようにも思う。ただ、語り始めるうえでの土台のようなものは多くの人にとってあったほうが良いものだろう。我々の多くは、ゼロから世界を創造できるような卓越した想像力を有する作家などではない。自分のような何でもない人間にとって、こういう場合に必要なのは、とりあえず今を知ることだ。
ネットをサーフィンすると、それなりに個人の経験や視点をベースにした紹介記事のようなものはある。しかし、全体像をイメージしようとすると、色々と記事を探して読むという手間をかける必要があった。その点、本書は、一冊で、技術の話から現状普及しているメタバースっぽいサービスの話、そして、そこで暮らす人々のカルチャー・価値観の話といったものをまとめて学べるという点でまず価値がある。しかも、体験だけではなく、調査を基礎としている点で、「肌感覚で言うとこう」みたいなものと一線を画す内容となっているところがポイントだ。
例えば、自分の場合であれば、MMORPGってどういうもの?ということについて、自分の思うところを述べることはできる。しかし、多くのユーザーがどう考えているか、みたいなことは、正直なところよくわからない。本書は、調査結果を基礎とすることで、こうした限界を突破している。
大体この手のものは、やってみればなんとなくわかる、みたいに言われがちだ。それが正しい面も多々あるのだが、あくまでもそこで得られるのは個人的な体験であったり感覚であって、全体像としてはどうなのか?みたいな話には必ずしもつながらなかったりするものだ。本書は、体験は体験として語りつつも、調査結果を照らし合わせることで、より確からしさみたいなものが加えられると同時に、全体で言うとどうなんだ、というのがとてもイメージしやすい構成となっている。この点で、他の解説ものにはなかなかない価値があると思う。
著者が、バーチャル美少女であるだけあって、ところどころkawaii推しが見え隠れする点は気になる人には多少気になるところではあるだろう。そうした現在は特殊なカルチャーと思われているものが、将来広がるのかどうなのかについて、現時点で確たることを言える人はいない。ただ、性別は大した問題ではなくなるというのは、そうなんだろうな、という気がする。
「人類美少女計画」みたいなことはともかくとして、今確実に言えることは、本書はバーチャル美少女的なワードを敬遠して読まないのはもったいない、想像力を刺激する良書だということだ。 少なくとも話のネタとしては相当使えるので、ぜひ手に取ってもらいたい。
ちなみに、著者自らが本書にちなんだ質問に答える配信も面白いので、合わせて楽しむのをおすすめする。
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