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“誰も脱出できたものはいない。本当に、いない。” Brute Force(1949)
ウェストゲイト刑務所からの集団脱嶽を計画する囚人たちを描いたジュールス・ダッシン監督 映画「真昼の暴動」より。
ここはウェストゲイト刑務所。
長いあいだ独房に入れられていた本作主人公:ジョー・コリンズ(演:バート・ランカスター)が、久しぶりに元の獄房R17号に戻ってくる。
ジョーには、純情な病身の娘ルースという恋人がいる。 その彼女はジョーが入獄していることも知らずに待っている。ルースに会うこと、ジョーにはそれがたった一つの娑婆への未練なのだ。
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R17の独房内の囚人にとって、壁に貼られたカレンダーについている女の絵が、心のよりどころだ。
ジョーにはルースを想い出させ、スペンサーにはかつてマイアミの賭博場で会つた女白浪フロッシーを、トム・リスターには家にのこした愛する妻コーラ、 通称「ソールジャー」(兵隊)には戦争直後イタリアで会った娘ジナを、それぞれに思い出させる。
彼らに限らず、囚人誰もが、この刑務所生活をきらって、娑婆への未練をもっている。
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さて、所長のバーンズは馘になるのを心配して絶えずビクビクしている小心者。大したことがない。
問題なのは、看守長マンジー(演:ヒューム・クローニン)。所長の椅子を狙う野心家で、功績をあせるあまり職権を乱用し、暴力も辞さず、囚人たちから蛇蝎の如くにきらわれる冷血漢。本作のヴィランだ。
厄介なことに、マンジーは脳まで筋肉の男ではない。頭も切れる。
何をするかといえば、囚人の中から適当な男を選んでは、時には権力で、時には暴力を 用いて、囚人たちの動向をさぐるスパイにつかっているのだ。
ジョーはそうしたマンジーのやり方を、心の底から憎んでいる。だから、まずはマンジーのスパイになった囚人の一人:ウィルスンを、 作業工場の中で圧板機に落して血祭に上げる。
もちろん、本命は集団脱獄計画だ。
結論から先に言ってしまえば、こっそり進めるはずだった計画は、いつの間にか大ごととなり、最終的には、トロッコが走り、マシンガンで囚人が撃ちぬかれ、血まみれの囚人達が刑務所の門の前に集結し、破壊された跡からは炎が燃え盛る、もはや何が目的だったのか一見わからない、しかし根本的には囚人たちが自由を求め刑務所がそれを無理に押さえつけようとする、地獄絵図と化す。
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最後は、ジョー含む獄房R17号の囚人全員が死亡し、マンジーもまた命を落とす。数の暴力で一度は開かれたと思われた刑務所の扉は、しかし出動した州警察の力で、また閉じられる。
物語は、飲んべえの医師:ウォルターの絶望的な述懐で締められる。
[last lines]
Dr. Walters: Nobody escapes. Nobody ever really escapes.
絶望と現実、この2つでトーンを徹底させたダッシンの演出は、鬼気迫るものがある。所謂「脱獄もの」の嚆矢となった傑作だ。
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