SF映画「トゥモローワールド」_閉塞と暴動の2027年、もうすぐ、そこだ。
ディズニーのトゥモローランド、および同名の映画(監督:ブラッド・バード)とは一切関係ありません。ブラッド・バードの世界観もそれなりにシビアだが、本作はそれを圧倒的に凌駕する。
監督は「ゼロ・グラビティ」でおなじみアルフォンソ・キュアロン。
「2050年 世界人口大減少」で予見された以上に悲観的な未来、人類滅亡の瀬戸際を、「ゼロ・グラビティ」で魅せたキュアロンの持ち味:時間と空間が密接にダイナミックにリンクする臨場感によって、表現する。
西暦2027年、人類にはすでに18年間子供が誕生していなかった。このままでは、この地球を引き継ぐべき人間はいずれ消滅してしまう・・・。エネルギー省官僚のセオは、人類の未来はおろか自分の将来でさえ興味のない、絶望を生きる男。ある日彼は、ジュリアン率いる地下組織FISHに拉致される。目的は“通行証”。彼らは極秘裏に“ある少女”をヒューマン・プロジェクトに引き渡す為、セオを利用する必要があったのだ。しかし、この少女こそが人類の未来を変える存在だということを、セオは想像もしていなかった…。
監督:アルフォンソ・キュアロン
撮影監督:エマニュエル・ルベッキ, A. S. C
原作:「人類の子供たち」P.D.ジェイムズ(ハヤカワ文庫刊)
脚色:アルフォンソ・キュアロン&ティモシー・J・セクストン
編集:アレックス・ロドリゲス、アルフォンソ・キュアロン
プロダクション・デザイナー:ジェフリー・カークランド、ジム・クレイ
衣装デザイン:ジェイニー・ティーマイム
オリジナル楽曲:“フラグメンツ・オブ・ア・プレイヤー”ジョン・タヴナー
SFXスーパーバイザー:ポール・コーボールド
出演:クライヴ・オーウェン、ジュリアン・ムーア、マイケル・ケイン
キウェテル・イジョフォー、チャーリー・ハナム、クレア=ホープ・アシティ
ポニーキャニオン 公式サイトから引用
「ゼロ・グラビティ」に先駆けて、本作は、完全たる主人公の一人称視点の映画となっている。つまり全編を通して主人公クライヴ・オーウェンの視点映像で構成されている。
国政、テロ、人種差別、戦争。「みんな等しく貧乏で、あらゆる権利を奪われた」1984な世界に生きる、この悲惨な主人公と同化させられてしまう。
観客が見るのは、主人公の辿る道だけ。悲惨な光景を主人公の視点から遠目で覗くロングショットの映像は脳裏に鮮烈な印象を叩きつける。
「ゼロ…」同様の長回しの映像も驚異的。主人公の身に危険が迫るシーンの多くはワンショットに見えるように編集されていて、殊に5分にも及ぶ壮絶な蜂起のシーンでは、飛び交う銃弾を避けながら走る様が、ステディカムで延々と撮影され、圧倒的な臨場感を生んでいる。
限りなく悲惨な世界の中を、なぜ主人公は走るのか。
それは、生き残るため。もっといえば、「人類の未来」を送り届けるため。
重力を感じさせる、見終わった後ずしりとくる、壮絶な旅路を、目撃してほしい。
まるでアフターコロナを覗くかような、うんざりするほど現実的で、硬派な、救いのない世界観。
「2030年 すべてが「加速」する世界に備えよ」では進化するテクノロジー同士が融合する「コンバージェンス」により、テクノロジーは加速度的に進歩している、コンバージェンスは破壊的なイノベーションをもたらし、社会を大きく変えていく。だから、この世界に適応すべく、学び続けよ、と、説く。
接頭語に「しかし」を付ける。
加速する世界は何処へ向かうのか?破滅に向かうのではないか?
ぼんやりとした不安を、見事に切り取る一作でもある。
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