"死にたくない"の駄々っこに付き合わされる客の身にもなってくれ…アーミー・ハマー主演作「ALONE」。
主人公のマイク・スティーヴンス(アーミー・ハマー)は、特殊部隊の兵士として働いていたが、あるミッション中に地雷原に足を踏み入れてしまう。彼は一歩も動けない状態で立ち往生し、周囲には地雷だらけの危険な地域が広がっている。マイクは軍の指示に従い、立ち往生した地点で長い時間を過ごすことを余儀なくされまる。
という引き込まれる導入部から始まる2016年の映画「ALONE」(原題はMINE)より。
地雷を踏んでしまった!
映画はおろか一人芝居ですら、誰も挑んだことがない前人未到のシチュエーションに、「あの」アーミー・ハマーが挑む。
これで、どうしてわくわくしないはずがない?
誰もいない砂漠で、置き去りにされるどころか、身動きひとつ取れない。
朝は大砂塵。昼は大熱射。夜は大寒波。砂漠は過酷だ。
天変が激しい環境だからこそ成り立つ、無人島以上にないない尽くしの、過酷なサバイバル。
映画館の椅子に自由気ままに体を預けてくつろいでいる、そして時にもぞもぞと身動きするような私たちにとっては、もうプロットだけで身震いしてしまうし、見る欲求に駆られてしまう魅惑にかられる。
これはたまらないと、2018年6月23日、新宿シネマカリテに私は足を運んだのだった。
で。終わって、明かりがついてみれば、嘆息。
本シチュエーションに挑むのが、よりにもよってこれが長編デビューとなる監督二人。
このシチュエーションだけでは客が来るのかどうか不安だったのか?
このシチュエーションだけではドラマを組み立てられなかったのか?
陽気な僚友との二人旅から始まる「道程」
昼間は敵兵が、夜間はオオカミが余談なく襲いかかる「暴力」
父の振るう暴力が子に引き継がれる「因果」
フィアンセとの幸せな日々を振り返る「追想」
砂漠の自由な民との禅的「問答」
あらゆる味をふりかけることで、いいとこ取りを狙った。けっしてお客を「飽きさせまい」とした。それが、良くなかった。
物語があっちへ行ったりこっちへ行ったり、加味された要素を消化するためにふらふらすることが、アーミー・ハマー演じる狙撃手の人物造形に暗い影を落としている。
この男、現実から目をそらし、ひたすら駄々をこね続けるのだ。
そもそも、任務を 「駄々をこねた」 挙句失敗する。
当然、無線役の僚友と共に追跡を受ける羽目となり、追い詰められた結果が地雷原に足を踏み入れ、まずは僚友の両足を吹っ飛ばしてしまう。
その死に体の僚友に向かって、無線機を渡せと 「駄々をこねる」 。僚友が苦しめば、痛いのは我慢しろと根性論を持ち出す。僚友はこの身勝手さに疲れ果てて自決する。
一人取り残された狙撃手は、通りすがりの住民に、水を渡せ、無線機を渡せ、と 「駄々をこねる」 。たまたま英語が通じ、たまたま何言われても水に流してくれる性格だったからよかったものの、上から目線の無礼な態度、逆上され殺されていても、おかしい話ではない。
やっと上司と連絡が取れる。救援を待てと指示が下る。そんなに待てないと 「駄々をこねる。」
いくらあっても使いきれない時間の中、回想にふける。フィアンセと別れたくないと 「駄々をこねる」 姿が浮かび上がる。
同時に、過去のトラウマも浮かび上がる。忌まわしい父親のまぼろしに 「駄々っ子パンチ」 を繰り返す。
ふと地雷から足を離す考えが浮かぶ。死にたくないと自分に 「駄々をこねて」 否定する。
時間だけが過ぎる中、地元住民も、僚友の幻も、フィアンセの幻も、父親の幻すら輪に加わって、地雷から足を踏み出せとキャッチセールスばりに甘い声で何度も何度も彼を促す。それでも彼はいやだいやだと 「駄々をこねる」 。
遠くに救援隊が見える。自分の位置を伝えられる信号弾は、「地雷から足を離さなくては届かない位置」にある。
ここでようやっと、彼は足を離す。
この「人類にとっての大きな一歩」、結局周囲の状況に流された結果でしかない。主人公はめそめそうじうじして、何一つ成長しないまま、終わるのだ。
精神分裂は(過酷な状況にあるからして)言い過ぎとしても、とりあえず、 人の好意に甘えている面の顔が厚いヤツであることは、間違いなく、言える。 「アメリカン・スナイパー」とは程遠く、米国軍人の恥晒しにしか見えない。不謹慎ながら、「足吹っ飛ばされりゃよかったのに」と怒りがこみ上げる程、この姿は女々しく情けない。
そもそも、結果だけ抜き取れば、「標的暗殺の任務に失敗し僚友を一人死なせた挙句、本人はけろりと帰還する。」こんな身勝手な主人公をどうして好きになれるものか。
地雷を踏んでしまった!
生か死か。
崇高なテーマにアーミー・ハマーは体を張った演技で応えようとした。残念ながら監督にその力量はなかった。ほんとうに、がっかりさせられた、傑作になり損ねた失敗作だったのだ。
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