クライマックスにあの大物が…ミュージカル映画「マペットの夢見るハリウッド」(1979)
マクドナルドは起業家レイ・クロックが52歳のときに出合ったその洗練されたシステムにほれ込み作り上げた帝国。レイは徹底的な現場主義と不屈の精神で、マクドナルド兄弟との契約の落とし穴やナンバー2との決別といった幾多の困難を乗り越え、全世界的チェーンをつくりあげた。
もちろん、その急激な拡張に軋轢が生じなかったはずがない。
日本に初めて出店した1971年の翌年には早くも、同じくハンバーガーチェーンのモスバーガーが発祥。マクドナルドと競い合うようにして全国展開を進める。そのモスバーガーのとある一店舗内にロケをした「ガキ帝国 悪たれ戦争」が、そのシークエンスのために実質封印映画となったのは、奇しくもマクドナルド初出店から10年後の1981年。
遅れて1974年にはイギリス初出店。こちらも順調に拡大を進めた5年後の1979年、世紀の人形使い、「セサミ・ストリート」「ラビリンス魔王の迷宮」「ダーククリスタル」を世に送り出したジム・ヘンソンがイギリスを拠点に製作した映画:「マペットの夢見るハリウッド」(原題はTHE MUPPET MOVIE(1979))に毒がまき散らされる。
すなわち、みんな大好き人気者のカエルのマペット:カーミットが、明らかにマクドナルドを模したカエルの足フライのチェーン店を経営するオーナーに命を狙われる羽目となるホラー大作…。
というのは、少し言い過ぎた前置きでして。
基本は、我らがカーミットとその相棒フォジー・ベア、ミス・ピギー、ゴンゾ、アニマルら、マペットの人気者たちを主役にした、退屈というものを全く感じさせない、お気楽な遊び心に満ちた大変豪華なミュージカル。
カエルのカーミットが故郷の沼地で歌う(当年のアカデミー歌曲賞にノミネートされた)「レインボー・コネクション」の、その陰影のある歌詞、優しい歌声に、早くも引き込まれてしまうのだ。
イギリス拠点とはいえ、そこはアメリカ育ちのジム・ヘンソンとあって、マペットたちが運転する車も、年代物のクラシック車ばかりなところも、見どころの一つだ。
カーミットとフォジー・ベアが、ロードトリップで使用するのは1951 Studebaker Commander。ハリウッドをゴールとするはずが、なぜかカナダへ行ったりメキシコへ近づいてしまったり、迷子になりながら陽気に車内で唄うMovin' Right Alongと合わせて、その鈍重だが力強い車体が疾走する様は、雄大なアメリカを旅している感覚を観る者に与えさせてくれる。
方や、マペットのロックバンド(Dr. Teeth and the Electric Mayhem)がカーミットたちに付いていくために乗り込むのはサイケにカラフルにペイントされた古いスクールバスの1961 International Harvester Loadstar。お鼻の長いゴンゾが運転するのは配管トラックの1946 Chevrolet Panel Van。主役を食っちゃうヒロイン?ミス・ピギーが運転するのは白いコンパーチブルの1959 Rolls-Royce Silver Cloud。
有名どころから無名どころまで、そのチョイスは確か。これぞアメ車!といわんばかりの佇まいが、古き良きハリウッドのミュージカル映画を見ているような至福感を与えてくれるのだ。しかし、どうやってマペットたちが車を運転している様を撮影してるんだろ。
当時イギリスでテレビ放映されていた「マペット・ショー」は、スターダムの歌手・俳優たち誰もが出たがった伝説の番組と会って、その映画版のカメオ出演は非常に豪華。ボブ・ホープら往年のスターから、ジェームズ・コバーン、スティーヴ・マーティン、エリオット・グールド、メル・ブルックスら同時代イケイケのスターまで、瞬きしていると見逃してしまいそうな出番の人もいるけれども、目を楽しませてくれる。
おっと忘れちゃいけない、ぼくらのビッグバードもカメオ出演だ!
さて、終盤。敵のオーナーは「カエルハンター」を雇い、逃げ回るのも嫌だと、廃村、もとい西部劇風の街でカーミットがガンマンのコスプレをして対峙するシークエンスを経て、ようやっとハリウッドのとあるスタジオにたどり着いた、カーミットとゆかいな仲間たち。
映画の上映時間も残り少ない。ほんの短い出番でも、なるほど、これはタイクーンだという感慨を与えてくれる男を演じられる俳優。葉巻を加えた強面の大男で見るからに畏怖と経緯を与えてくれる俳優。
そんな人物居るのだろうか?
いや、いるのだ、これが。
緊張の面持ちで、大物プロデューサー:ルー・ロードの部屋の扉を開けて、中に入るカーミットたち。
椅子を回してカーミットらと対峙する、その男は、なんと、
オーソン・ウェルズ。
ロードは、カーミットを一瞥し、葉巻を吸い、そして契約のサインをする。歓喜のハーミットたち。どんな長台詞よりもパンチの利いた演出に、感動すら覚えるであろうシネフィルたち。
クライマックスは、カーミットがメガホンを取り、マペットたちが「自分たちの物語をもとに映画を作る」つまりは入れ子構造であることが示される。ちょっとした寸劇を経て、今度はマペット「たち」が大合唱する「レインボー・コネクション」のうちに、映画は祝祭の中で終わるのだ。
当時の日本で未公開だったのがあまりに不可解。やっぱりこれ、ハンバーガーチェーンを揶揄した様な内容なのが映倫の逆鱗に触れたか、各所から圧力かかったんじゃないのかなあ…。