![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41104366/rectangle_large_type_2_7a7a8404511c935308217e1c34ccc450.png?width=1200)
映画「狂った野獣」_愚か者の船、だからバスジャック。 止まれやしない。
Apple Arcadeのインディーズゲー「SpeedDemons」は、デフォルメされたグラフィックを引き換えに、クルマを潰す、壊す、爽快さに焦点を置いたゲームだ。子供の頃乱暴に扱っていた、ミニカー遊びの楽しさがある。
高校時代、ちょくちょくゲーセンに足運んでいた頃、
「バーンアウト」「スリルドライブ」とか、この手のぶっ飛ばす系のゲームがすきだったなあ、と思いながら。ポチポチ楽しんでいる。
海外映画のカーアクション嗜好は、これの延長線上にあるだろう。
お国柄か、カーアクション映画について、とんと日本では見かけない。
数少ない例外が、1976年に東映系で公開された渡瀬恒彦主演「狂った野獣」だ。
お話は簡単:中型バスが市中を突っ走るはなし、なのだが…。
同時期の東映製パニック映画「新幹線大爆破」のミニマライズ版(または早すぎた「スピード」)と思って観ると、酷い目合うぞ。
逃げられない密室空間でもの皆狂い、喚き、のたうつ、愚か者の船。
カミュの「ペスト」における、リウーやランベールような賢者はいない。
「ハイジャックを食い止める」ヒーローなど、ましてあり得ない。
誰も止められないまま、車は爆走する。
目の病気で会社をクビになったテストドライバー・速水は、友達の美代子と宝石泥棒を計画。数日後、まんまと宝石を盗んだ二人は、警察の追っ手をくらますため別々に逃亡。作戦は成功したかに見えたが、速水の乗るバスに、警察に追われる銀行強盗・谷村と桐野が乗り込んできたことから、事態は一変。駆け出しの女優、主婦、ホステス、小学生、チンドン屋、宝石泥棒を巻き込んで、逃げるバスと追うパトカーの壮絶なカーバトルが始まった!非常線を砕いて狂走するバス、緊迫と戦慄に包まれた乗客たち。狂気の狭間でエスカレートしていく人々の恐怖は、奴らを二重三重の犯罪へと巻き込んでいく――!!
主演・渡瀬恒彦が、「暴走パニック大激突」に続いてド迫力のカーアクションに挑戦!川谷拓三、片桐竜次、志賀勝、室田日出男、笑福亭鶴瓶ら個性派キャストが脇を固めている。
中島貞夫監督が、暴走する狂気の沙汰をスリル&スピードたっぷりに描破したサスペンス・アクション!
CAST
渡瀬恒彦 橘麻紀 中川三穂子 星野じゅん 片桐竜次 志賀勝 三上寛 笑福亭鶴瓶 川谷拓三 室田日出男
STAFF
企画:奈村協、上阪久和
脚本:中島貞夫、大原清秀、関本郁夫
撮影:堀越堅二
音楽:広瀬健次郎
監督:中島貞夫
東映ビデオ公式サイトから引用
前半までは:乗客全員、車内が野獣の群れ。
昭和のパニック映画なら、だいたい中産階級以上が主役兼被害者となるところ
本作は真逆、下層階級のヒトビトが主役だ。
銀行強盗をして逃亡途中の犯人(演:片桐竜二&川谷拓三)が乗り込んだバスのバスの乗客は、チンドン屋、不倫カップル夫、夜の仕事からの帰り、売れない女優、愛猫をこっそり持ち込んだ老婆、ブルーカラー、頭の悪そうなガキ、そして心臓に持病ありの運転手。犯人以上に、脂ぎった連中ばかり。
バスジャックした所、怯えるどころか「早く降ろせ」「車を止めろ」の大合唱。
二人の目論見は、早くも崩れる。
銀行強盗犯二人は、バス内を暴力で統率することも叶わない。
子供に窓からオシッコさせてあげたり、乗客同士の喧嘩を仲裁したり、心筋梗塞の発作で倒れたバスの運転手を介抱したり、爆弾処理に追われる羽目になる。
乗客たちは、バスジャックされてパニックになるどころか、一致団結して?それぞれのエゴをむき出しにする。そして、華麗に宝石強盗に成功し、本来ならクールに逃走できたであろう速水(演:渡瀬恒彦)は、予定を台無しにされている。
後半からは:非常線突破、バスが野獣化。
だから、速水はこのままではラチが上がらん、とハンドルを頂くのだ。犯人二人は隅っこで泣いている。
やっと本格化したバスとパトカーのカーチェイス。ジャンプ台なども駆使して派手に破壊されるパトカー、救いを求めて這い出してきた血まみれの警官をほったらかしにしつつ、市内から郊外、野原から土手へ。
非常線を突破して暴走する、ちょっとオンボロの中型バス。
これ、「オトナ帝国の逆襲」の幼稚園バス爆走の構図と同じだ。
それも力付き、警官隊にバスが包囲されたところで、速水は逃亡用のヘリコプターを要求。それは銀行強盗犯ふたりを、囮にするための企み。案の定、我先にヘリに乗り込もうとした強盗犯ふたりは、裏切った警察によって射殺される。
被害者を装っていた速水は、宝石を隠しておいたバイオリンケースを抱えて現場からまんまと逃走。一息ついて、ケースを覗く。
中身は空っぽだった。
他の乗客全員が事件のどさくさに紛れて宝石を持ち去ったのだ。
記者会見に臨んだ乗客たちは自分たちのネコババが発覚するのを怖れ、すべての犯行は射殺された二人が行ったと口裏をあわせた。真実は闇に葬り去られる。
ホクホク顔の匿名の市民と、撃ち殺されたコソ泥と、命だけは助かった速水。
「だれが一番悪いやつだ?」 問いかけを残して映画は終わる。
まとめると。
極限状態においては、集団の中からヒーローが立ち上がる はずもなく
極限状態においては、皆が皆、無様な姿を晒す。だれも止めることはできない。
それでもいつの間にか極限状態は終わり、タフな人間が最終的には生き残る。
危機に際して、俗物がわめいて、踊って、バカを晒して、最後有耶無耶にする、喉元過ぎれば熱さを忘れる、それが、ゲンダイの縮図。
ヒーローなんていやしない、という本作の主張は、とてもクールでシニカルだ。
なお、この映画でいちばんブザマなのは、白バイ警官(演:室田日出男)だ。
バイクを潰してしまった彼は、それでも暴走バスに追いつかんと、歩道橋の上にあがって、バスの屋根にダイブする。
これが、みさえやひろしだったら、カッコよく飛び移ることに成功するだろう。
しかし彼は所詮大部屋俳優。タイミングが狂いマトをはずして路面にたたきつけられ、足をグシャグシャにし、血塗れのまま辛うじて立ち上がったところで、通りがかりの車にハネられて、無事死亡。
不謹慎だが:ヒーローになりそこねたブザマさを笑うだけでも、お釣りが来る。
いいなと思ったら応援しよう!
![ドント・ウォーリー](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/15855897/profile_873ae2973c7bea4785b4e985586a30d5.jpeg?width=600&crop=1:1,smart)