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天に義あり、地に拳あり_「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ 天地大乱」

変換差し迫った香港。期待と不安で半ばする香港人は、だからこそ映画館の暗闇に駆け込んだ。
当然のように訪れた、興行収入うなぎのぼりの香港映画90年代黄金期。この時代を代表する傑作のひとつ:リー・リンチェイ(ジェット・リー)の香港時代の代表作:「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ」シリーズより。

19世紀末の中国を舞台に、中国の伝説的な武術家である黄飛鴻(ワン・フェイホン)の活躍を描いた物語。黄飛鴻は、清朝末期の社会的な混乱と外国の侵略に立ち向かい、中国の伝統的な武術と価値観を守ろうとする。つまり本作の魅力は、清国に仇なす敵をカンフーの迫力と技の美しさで蹴散らす爽快感にある。他方で、フォークの使い方や列車の乗り方など、急速に流入する西洋文明を勘違いして戸惑う「東海道中膝栗毛」的なおかしみにも、魅力がある。
その第二作「天地大乱」より。

物語は:黄飛鴻が広東に戻ったところ、そこで白蓮教という秘密結社による民族主義者への攻撃に立ち向かう。彼は、伝統的な武術と正義を持って、中国人の尊厳と誇りを守るために戦うのだ。
白蓮教といっても、ただの新興宗教団体ではない、過激な武闘派の集団。その詳細は同時代を生きた国枝史郎がエッセイ「雑草一束」で以下の通り記すように:

支那の秘密結社といえば「白蓮会」「三合会」「哥老会」の三つを先まず思い出します。この中白蓮会からは分派として一時「大刀会」「小刀会」「在理教」等の会が出来、その流れが馬賊になったということです。有名な義和団もこの白蓮会の支流の筈です。その起源は非常に遠くて、北胡の侵入時代だと云いますが、ハッキリ白蓮会の名を、世間へ印象させたのは元の順帝の至平十年で、韓山童という人物だそうです。俺は弥勒仏の産れ変わりだと称して愚夫愚婦をまどわしたそうであります。

 次に起こったのが「三合会」で、「清水会」「双力会」などという支流があります。その成立は康煕十三年だそうです。有名な長髪賊の中にも三合会の会員は多数加わって居りまして一大勢力となっていた筈です。三合会の会員全部が是これに加わる筈になっていたそうですが、長髪賊の洪秀全の持っている教理と三合会の教理とが相反していたため其その事が行われなかったそうです。もし三合会会員全部が加わっていたら長髪賊の勢力はもっと大きくなっていたことと思われます。

 次に起こったのが哥老会で、その起源は乾隆年間であり、盛んになったのは同治年間でその盛んになった原因が一寸ちょっと面白いのです。と云うのは長髪賊を平げた湘勇の子弟が、戦終わるや衣食に窮して、各自団隊を作りましたが、これが哥老会に合したため盛んになったというのです。長髪賊の中には三合会員があり、それを亡ほろぼした連中が似たような秘密結社の哥老会に入会したという訳です。そうして三合会と哥老会とは非常に親しいというわけです。

https://www.aozora.gr.jp/cards/000255/files/47252_58843.html

このうち三合会は、第二次世界大戦後も、香港黒社会として、香港の隆盛の影を支えることとなる。

それはともかく、今回黄飛鴻が対峙するのは、「俺は弥勒仏の産れ変わりだと称して愚夫愚婦をまどわす」白蓮教教祖・九宮真人。この男、演ずるホン・ヤンヤンがジェット・リーのダブルを務めたこともあってか、それは凄腕の功夫の使い手。胡散臭い見た目のくせにめちゃくちゃ強いのが、しゃくだ。

敵は白蓮教だけではない。「清朝の威信と安泰」のために両者を危険視する広州警察も敵。周囲は敵だらけ&かつての領土の一部も奪われている、明らかに当時の変換差し迫った香港のメタファーたる広東でありながら、警察は外人には媚びつつ自国内の敵を炙り出すのに必死。「中国人狩り」と言うほかないえげつない虐殺も平気で行われる。
そのトップであるラン提督(演:ドニー・イェン)は、布棍を片手に、これまた敵の一人:黄飛鴻を執拗に追跡する。

ここに地下活動を展開する孫文ら革命派が加わっての、多数の勢力がひしめき合う中、黄飛鴻は、詰まれた机を砕いた後転蹴り、空中から敵を吹っ飛ばす強烈な蹴りなど、変幻自在かつ流麗な足技で白蓮教や警察に立ち向かう。ご機嫌なオープニング、リアルに再現された清朝末期の街並み、えらく正攻法で敵に打ち勝って見せるジェット・リー。90年代香港映画のイケイケドンドン感を堪能する、そして当時日本人のコアなファンを数多く形成した上で、大いに納得できる傑作だ。
本作の公開当時、普通の会社に成り下がる前夜、宣伝一つで客を呼ぶことができた配給元:東宝東和の惹句を引いて、本記事を閉じよう。


天に義あり、地に拳あり

腐ったこの世の根性を、叩き直して大暴れ! 黄飛鴻、いま歴史を揺るがす。



画像なCriterion Collectionから引用


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ドント・ウォーリー
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