「帽子を前後逆にかぶるんだ、それで俺のスイッチが入る」_"Over the Top"(1987)
10年間息子から引き離されてコンボイ・トラックの運転手をしながら全米アームレスリングのチャンピオンを目指しているリンカーン・ホーク(シルヴェスタ・スタローン)は、妻の入院を機会に息子と再会を果たすこととなる。しかし、年月の壁は、息子の父に対する気持ちを凍りつかせていた。
リンカーンは決意した。息子の心を取り戻すためにもチャンピオンにならなければいけない。
キャノン・フィルムズ総帥メナハム・ゴーラン御大自ら監督、1987年に鳴り物入りに公開、全米で大コケ日本で大喝采、シルヴェスター・スタローン主演のアメリカ合衆国の映画『オーバー・ザ・トップ』(Over the Top)より。
日本ではオリコン洋楽アルバムチャートで1987年3月9日付から5週連続1位を獲得した『オーバー・ザ・トップ』『イン・ディス・カントリー』『テイク・イット・ハイアー』『オール・アイ・ニード・イズ・ユー』他サントラが素晴らしいのは言うまでもない。
あまりに素晴らしすぎて、「ミュージックビデオ的」という一言で片づけてしまいそうになる本作、のちにスタローン自身が「ロッキー」の続編で演じる父と子の確執と和解のドラマはさておいて、「アームレスリング」という後にも先にもない題材、そして80年代全盛期スタローンの太く逞しい二の腕をフィルムに焼き付けたことに、本作の真の価値はあると言って良いだろう。
アームレスリングの世界では、幅広い肩、握り合した手先に、男たちの視線がせめぎあう。
真っすぐ引いた線の上に向かい合い、互いの肘をつき、肘から先をまっすぐに立て、手を堅く握り合って、戦士二人が睨み合う。
互いに相手の手をテーブルに押し倒そうと、腕が、いや、その大きな身体が揺らぐ。
片方がもう片方を一気に押し均衡を崩したと思うが否や、再び全く五分ごぶの状態まで押し戻す。膠着状態かと思ったら、ありったけの力を込めて傾けてテーブルにつくまであっさり倒してしまうことだってある。
要は、根競べに尽きるのだ。どちらが勝つか賭けているギャラリーの視線をものともせず、信じられるのは己の腕一つだけ。
そんなぎりぎりの勝負の世界、修羅場を幾度も渡り歩き、最終的にはラスベガスでの世界アームレスリング選手権に挑むホークは、間違いなく、「ランボー」や「ロッキー」と同じ系譜:使命に身体一つで命を賭ける、戦士だ。
「勝負の時は帽子を逆にする、するとスイッチが入って、それまでの俺と違う何かに変身する。トラックのようなマシーンになる」
というホークの言葉通りの、熱気むんむんの腕相撲の文字通り「拳闘」シーンが、本作の暑苦しい魅力の一つだ。思った以上にサマになっている、コンボイ操るスタローンのブルーカラー、トラック野郎ぶりも含めて。
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