ペキンパーの描く、トラック野郎の度胸一番星「コンボイ」(1977)
1977年に戦争映画の傑作「戦争のはらわた」を監督した巨匠サム・ペキンパーが、次に手掛けた作品が、トラック運転手たちの抗議行動を描いた「コンボイ」だ。
大型トラックの運転手マーティン(クリス・クリストファーソン)と保安官ウォーレス(アーネスト・ボーグナイン)の確執をきっかけに、マーティン、ピッグ・ペン(バート・ヤング)、スパイダー・マイク(フランクリン・アジャイ)ら運ちゃんたちが集団で走行するトラック(=コンボイ)がメキシコに目的地を定め、保安官らの包囲網を突破するべく熱風5000キロ、アメリカの熱風巻き上がる大陸を激走する映画だ。
「戦争のはらわた」のペキンパー「らしさ」とは真逆に、カントリー・ソングを原作に(!?)した映画もあってか、どこか陽性の雰囲気、群像劇、バケツ一杯すらない血みどろの不在のせいで、全世界のシネフィルから総スカンを食らった。
なお、長距離トラックの運転手・星桃次郎(菅原文太)と相棒のやもめのジョナサン(愛川欽也)が日本全国を縦断するロードムービー「寅食う野郎」もとい「トラック野郎」全盛期の日本では、そのキーすぎる題材から、みごとにバカ受けした。おりしも、「男一匹桃次郎」と「突撃一番星」の間に公開された作品。
「トラック野郎」が泣きを入れたり力技のギャグ入れたり、緩急の塩梅を付け、クライマックスの激走シーンに観客のエモーションを運んでいたところ、本作は、冒頭からひたすらトラック野郎たちの激走シーンを挿入、観客の感情を置き去りにしてくる御意見無用な脳筋仕様。
すなわち、「故郷宅急便」にある様な、ハンドルを握りながらコーヒーを淹れる星桃次郎・牛乳をストローで数珠繋ぎにしてすするジョナサンの様な奇妙な奇行な運転シーンも、「爆走一番星」のバキュームカーや赤ふんを使ったお下劣なギャグの様な下ネタのつるべ落としも、「一番星北へ帰る」の常盤ハワイアンセンターよろしくご当地ロケ感感じさせる風情というものも、「故郷特急便」で指パッチンしながら冬の海の中をずんずんと進んでいく百次郎よろしく格好よくも格好悪いおかしい主人公の造形の作りこみなど、まるで期待してはいけません。
緩急?なにそれ?とばかり、「コンボイ」はとにかくアクションで押して押すの一本やり。
パトカーや障害物にぶち当ってぼろぼろに壊れていく様を、惜しみなくフィルムを使ってレンズに収めているのは、圧巻。「ラバー・ダック」が運転する黒いトラックマック・RS700L トラクターや、「ピッグ・ペン」ことボビーが運転する1977年モデルの白いマック・クルーズライナートラック、「スパイダー・マイク」が運転するシェビー・ジムニー ブレイザが、障害物や一般車、そして何と言ってもコンボイの行く手を制止しようとするダッジ・チャレンジャーはじめとするパトカーをものともせず、ぐしゃぐしゃにスクラップにしていく様は、ペキンパー十八番のスローモーションと相まって、天下御免の有無を言わせぬ世界観を作り出している。
ペキンパー印を強く感じさせるのはその出演陣。
主演のマーティン演じるは「ビリー・ザ・キッド21歳の生涯」のクリス・クリストファーソン。ヒロインは「ゲッタウェイ」でマックイーンの相手役を務め結婚に至ったアリ・マッグロー。ペキンパー常連のアーネスト・ボーグナイン、ボー・ホプキンス、バート・ヤングが顔を出しているし、セカンド監督にはシュタイナー軍曹ことジェームズ・コバーンの姿も見える。音楽はジェリー・フィールディングだ。
と、半ばまではテンションを挙げてくれる本作。
しかし、半ばを過ぎたあたりから私の中ではトーンダウン。その理由は、
・コンボイを追いかけるマスコミ、州知事を目指すべく政治利用しようとする上院議員、コンボイたちの激走に熱狂する一般人たち限られたフィルムの尺を割いてしまうこと。(構成のまずさ)
・彼らがみなウジウジとクルマに身をゆだね、「トラック野郎」ならあるべきであろう、血沸き肉躍る殴り合いが全くないこと。見るからに醜悪な上院議員すら殴らずに、すごすご引っ込んでしまう。
・結局は保安官が待ち構えている→突破する→待ち構えている→突破する→待ち構えている…の繰り返しでしかないストーリー
に求めることが出来るだろう。
それでも、クライマックス、ウォーレス率いる保安官たちの一斉掃射の前に、突っ込むも虚しく、鉄の棺桶の中に崩れ落ちるマーティンの姿に、「滅びゆく男の美学を描く」一抹の、ペキンパーらしさを感じることが出来るのだ。マーティンの死を悼む、トラック野郎たちの手による鎮魂のクラクションの葬送曲、と合わせて。
かくてウォーレスの死は、FBIの名誉と、上院議員の票集めの演説に利用されることとなった…そんな三流な筋書きをペキンパーが描くものか!
べたべたなながら解放感がある、トラック仲間とウォーレスは大歓喜、他の俗物どもは右往左往な、細かいカット割りで演出された、どんでん返しは見事!ボーグナインの笑みと合わせて。