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森崎東の「喜劇特出しヒモ天国」_ 振り返るな、ローエンドロー。
「夜の街」の住人たちが、目の敵にされる風潮。この手の住人がケガレを理由に忌み嫌わるのは世の常とはいえ、彼らの生き様にせめて少しは寄り添いたい。
「寅さん」の初期の脚本を山田洋次・宮崎晃と共作した森崎東。
彼が監督した本作では、「夜の街」の住人たち、すなわち
ハダカの女性たち、それを支える男たちの、生々しい実態が描かれる。
彼らのささやかな喜びと共に、排斥される悲しみも同時に描いている。
後にも先にもない、70年代ストリップ劇場の実情を描いた、貴重な記録だ。
本作、冒頭からかっ飛ばしている。住職(演じるは怪優・殿山泰司)がありがたい説教を説いている(おじいさん・おばあさんたちが拝んで聴いている)お寺。
その境内にある墓場の裏側にストリップ小屋がある。女たちが出たり入ったりしている上を、OPロールが流れていく。 聖と俗の見事な対比。
舞台となるこの京都のコヤで、ビートたけしが「浅草キッド」で描いた様な、ストリップ小屋の女たち、裏方たちの面白くも悲しい人間模様が繰り広げられる。
不運にも?真っ当なセールスマンとしての生活をはみ出して、このコヤの支配人となってしまった山城新伍を狂言回しにして、物語は展開される。
(晩年は醜聞だらけだが、この頃の山城新伍は一流の喜劇人:輝いている。)
ストリッパーたちの春夏秋冬。
ストリッパーたちは個性豊か。大ベテランの絵沢萠子、性転換したカルーセル麻紀、元フーテンで現在アル中の芹明香、豊満なバストで姉御肌の池玲子。
彼女たちにはそれぞれマネージャー兼付き人である「ひも」と呼ばれる男たちがくっついている。孫のような歳差のあるおじいちゃんの「ひも」も、いる。
「ひも」になった理由は多種多様だ。
例えば、刑事だった川谷拓三は、プライベートでストリップ小屋にかぶりつき。
それを目ざとく見つけたストリッパーがステージに引っ張り上げて本番行い、そこに運悪く警察の手入れ、懲戒免職、そのまま「ひも」になったわけ。
なお拓ボンとの絡みで、「仁義なき戦い」なオールスター:渡瀬恒彦と名和宏と室田日出男と志賀勝と野口貴史と深作欣二がカメオ出演。探してください。
基本、女性上位のストリッパーの世界。一人前の「ひも」と認められるにも、様々な試練を乗り越えなくてはならない。
当然、この競争社会?からドロップアウトしてカタギになる男もいる。
恥を忘れて踊るために酒を飲むようになった芹明香。彼女の酒癖を治すべく川谷拓三は必死になるのだが、結局、彼の心の方が先に折れて、逃げ出してしまう。
逆に、蜜の味が忘れられずカタギから再び「ひも」に舞い戻る男もいる。
藤原鎌足演じる前述のおじいちゃんがそれだ。ストリッパーを各所でリクルートして土産代わりに持参する、当然若い男たちに横取りされる。シオシオ隅っこで泣いている。
あるいは、ストリッパー同士のいびり合いも、えげつなく描かれる。
ある踊り子には幼い子供がいるのだが、彼女の実演中その子がぐずってステージまで出てきてしまう。なんでぐずったのかというと、先輩がその子に対していけずなことをするから。
以上述べたとおり、舞台の上の明るさ・優しさ・崇高さとは逆、ドロドロとした世界が、ストリッパーの春夏秋冬と共に、あっけらかんと描かれるのだ。
目を瞑らずに描く、悲惨すぎて笑える、とはこのことかもしれない。
いちおう、以下4つの伏線らしいものはある。
① 特出しや本番が売りのため、公然わいせつ罪で定期的にストリッパーが京都市の所轄署に検挙される(そしてすぐ放免される)なあなあ日常が続いている。
② 仕事柄、山城新伍は色々な女たちを甲斐甲斐しく世話する。
③ 逃げ出した川谷拓三、それでも芹明香を忘れられない。
④ 耳が全く聞こえない森崎由紀が一人前のストリッパーに成長していく、同じく耳が聞こえない夫・下条アトムが一人前の「ひも」に成長していく。
この4つが終盤の展開のカギとなる。
③については「フラッシュダンス」感がある。
森崎がストリッパーを選んだのは、生まれてくる子供の養育費を稼ぐため。(障がい者への風当たりが厳しい時代だ。)池玲子の厳しい指導の元、ダンスの汗臭い訓練が続く。下条との二人三脚もあって、ダンスは一人前になっていく。
しかし客はスカート付のダンスでは満足しない。本番、まともに踊ろうとした森崎は、アジに戸惑う。耳が聞こえなくても圧は伝わるのだ。
やがて、恥も外聞もダンスの定形も投げ捨てて、あそこ丸出しで森崎は踊る。
この姿が、愚かしく、それでいて実に美しい。
春から夏へ、夏から秋へ、秋から冬へ、冬から春へ。
ストリッパーは踊り、「ひも」は加わっては去り、コヤはいつでも満員御礼。
ああ、こうやって何事もなく一年、また一年と過ぎていくんだなあ…
と言う感傷に一切ひたらせない あっけない破綻を迎える。
その破綻の目の前にして、萎む心を奮い立たせるべく?見た目も性格もまるで違う、いがみあってばかりの女たちは、いつしか声を揃えてふたつの歌をうたう。
女たちは歌う、「ローエンドロー」。
巡業していたストリッパーたちが、京都のコヤに帰ってくる。
懐かしい顔が揃った記念に、ストリッパー一同で花火見物に出掛ける。
芹明香は焼酎かっくらって淀川に飛び込む。彼女を介護する山城新伍。
と、そこに火事の知らせが来る。山城新伍が、彼女をおぶったまま走って辿り着く、自分のコヤが燃えている。 背中の女は炎を見て「綺麗ねえ…」と呟く。
藤原鎌足らヒモとストリッパーの何人かが焼け死ぬ。
近くにあった別のコヤで葬式をあげる一同。俯いて死者の魂を黙って弔っていた彼女たちは、しかし黙ってられず、いつしか声を揃えてひとつの歌を歌い出す。
野坂昭如作詞 「黒の舟唄」。
極楽見えた こともある。 地獄が見えた こともある…。
艶歌もといエンカを唄って、ハダカになって踊り出す。
それが彼女たちなりの、戦友たちへの弔い方 なのだ。
「お寺の背後のストリップの小屋」にシーンは切り替わる。殿山泰司のありがたい説教が聞こえてくる。OPロールとまるで同じ構図に「おや?」となる。
死んだ仲間は骨壷に詰めて、その境内に埋めてきた。営業再開、これは弔い合戦だ、さあ頑張るぞ!と張り切る芹明香らストリッパー一同。
だが、そこに公然わいせつ罪容疑で、刑事たちが乗り込んできた!
女たちがもういちど歌う、「ローエンドロー」。
今回は市ではなく京都府警の一斉手入れだ。ストリッパーとヒモたちは抵抗するも(コヤを上に下にの大騒ぎだ)、全員逮捕。
「あーあ、これで京都のストリップも全滅かあ…。」と嘆く常連客たち。
「京都のストリップはなくならへんどー!」とトラックの上から叫ぶヒモたち。
刑事たちが立ち去った後、ぶるぶる隠れていた山城新伍は、逃げ回った芹明香に再会する、ほっとした顔を合わすふたり。
と、そこに間が悪く川谷拓三が現れる。山城新伍と一緒にいた芹明香に逆上した川谷拓三は、まかないの台所にあった出刃包丁で山城新伍を一突き!
山城新伍が刺されて洗剤にまみれて転がる、そこに殿山の声、説教が被さる!
人間はみな死ぬんじゃ、
おまえらはみな死ぬるんじゃ、
どんなことがあっても助かる望みはない、
瀕死の山城新伍の腹部からぼたぼた血が流れ、洗剤と混じって泡を吹く。
ええか、ここが肝心のところじゃぞえ、
たすかろうと思うのが間違いじゃ、
生きてる間はたすからん!
あの世に行ってもたすからん!
未来永劫、たすかりゃせんのじゃ!
南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏…。
なるほど、恐ろしい景色。
芹明香も警察に猛烈に抵抗しながら連行されてしまう。自首した川谷拓三は警察に相手してもらえない。「人殺しは逮捕しないで、ストリッパーを逮捕するのか!」と地団駄踏む彼の叫びが、痛い。
結局捕まらずに済んだのは、コヤを離れていた池玲子と、森崎&下条夫妻、しぶとく生き残った山城新伍のみ。
病院を訪れた池玲子は、まず山城新伍を見舞うが、ヒモ生活にどっぷり漬かった山城新伍はストリッパーの心配ばかり、呆れ顔。
次に森崎由紀の病室に向かう、夫婦は、新しい命を授かっている。それに優しい笑顔を浮かべて、池玲子は去っていく。
同じ頃、ストリッパーたちは連行されるトラックの上。
彼女たちは声を揃えて歌う、「黒の舟唄」。
男と女の あいだには 深くて暗い 河がある
誰も渡れぬ 河なれど エンヤコラ今夜も 舟を出す
ローエンドロー(ROW&ROW) ローエンドロー 振り返るな ロー
歌いつつ、何処ともなく連れ去られていく。
じっとこちらをみつめる芹明香の眼差しで、エンドだ。
いかがだろうか。
人は死ぬ、人は反省なんかしない、馬鹿は死ななきゃなおらない、男と女の悲しくもおかしき縁は文明が崩壊するまで延々とつづく、
そういった感じで、聖と俗を対比し、人間を謳い上げる、見事な出来栄えだ。
脚本=山本英明、松本功
監督=森崎東
原作=林征二
企画=奈村協
撮影=古谷伸
美術=吉村晟
音楽=広瀬健次郎
録音=野津裕男
照明=金子凱美
編集=神田忠男
出演=山城新伍、池玲子、芹明香、カルーセル麻紀、絵沢萌子、藤原鎌足、川谷拓三、下条アトム、川地民夫、中島葵、殿山泰司
1975年/78分/東映京都/ビスタ/カラー/35㎜/成人映画
2020年7月16日に逝去された森崎東監督。
「時代屋の女房」「美味しんぼ」「釣りバカ日誌スペシャル」あたりが有名どころだろうが、本作は彼の裏ベストというべき傑作だ。
タイトルのいかがわしさに怖気づかないように。 この週末に、ぜひ!
※森崎東監督「寅さん」第三作も紹介しています!
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