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家庭も学校も地獄、超能力で吹っ飛ばしてやれ!な映画「マチルダ」。
ダニー・デヴィ―ト(Danny DeVito)は、アメリカの俳優、映画監督、プロデューサー、コメディアンで、その小柄な身長と独特の風貌で知られるハリウッドのベテラン俳優の一人。
日本で一番有名なのは、ティム・バートン監督『バットマン・リターンズ』(Batman Returns)で演じたかわいそうなペンギン役だろう。元々ジャック・ニコルソンのマブタチで、前作でジョーカーを演じたニコルソンがバートンに紹介したことが、配役の理由の一つになったといわれている。
そんな可哀想なペンギンを演じたダニー・デヴィートが監督、製作、出演、ロアルド・ダールが晩年(1988年出版)に執筆した児童文学の映画化「マチルダ」より。チョコレート工場、のチャーリー以外の4人の子供よろしく「モノは与えられても、愛は与えられない」家庭でも学校でもネグレクトされる少女が圧倒的な大人の力に苦しむ中、突如ふしぎなちからに覚醒し、それをフル活用しての大逆転劇が、本作の魅力だ。
キャストは以下の通り:
マチルダ マーラ・ウィルソン
マチルダの父:ハリー ダニー・デヴィート(兼監督)
マチルダの母:ジニア レア・パールマン(当時も今もデヴィ―トの奥様)
マチルダの兄:マイケル ブライアン・レビンソン
マチルダの担任:ミス・ハニー エンベス・ダビドス
トランチブル校長 パム・フェリス(「アスカバンの囚人」でマージョリー・ダーズリーおばさんを演じた方)
以下、原作を一部脚色している(つまり設定が変更されている)箇所があることに、あらかじめ触れておく。
主人公のマチルダはディケンズの『大いなる遺産』などを読みこなす能力を持ち、電子計算機に劣らない頭脳を備えた天才的な少女であるが、不思議なことに両親はそんな彼女の才能にまるで関心を持たず、むしろその才能を押しつぶすような育て方をする。
ありていに言えば、ポッターの養育者:ダドリー一家を悪化させたような一家。腐っても父親が経営者で「まとも」な倫理観を持ち、母親は教育ママで、息子はその期待に応えようとがんばったダドリー一家とは違って、この一家には倫理観も向上心も、まるで存在しない。父親ハリーはインチキな仕事で金儲けをし、母親ジニアはゲームにうつつを抜かして家庭をかえりみない。兄貴マイケルは性格が腐っていて、平気で幼いマチルダに手をあげる。
父と娘の価値観の相違がはっきりするのが、夕ご飯後のフリータイム。父はテレビ、娘は読書に耽る。そんな読書を楽しむ娘の姿を咎めた、父の台詞から引用。
Harry Wormwood: A book? What do you want a book for?
Matilda: To read.
Harry Wormwood: To read? Why would you want to read when you got the television set sitting right in front of you? There's nothing you can get from a book that you can't get from a television faster.
そしてハリーは、マチルダの手にあった図書館から借りた本を叩き落とし、大人げなく娘の首をがっちり固定して、俗悪なテレビ・ショーに強制的に視線を合わせ、マチルダをパッパラパーにしようとするのだ。皮肉にも、このストレスのおかげでマチルダの超能力が発現する。
こう書くと実際ネグレクトなのだが、そこはコメディアンの演出。マチルダより精神年齢が低い「子供」としてハリーとジニアをコミカルに戯画的に描写する。つまり精神年齢上なのがマチルダ。アホで愚かであまりにも人間的すぎる大人:ハリーとジニアを全力で演じる大の役者2人に乾杯!これもある意味、体を張ったギャグなのだ。
ともあれ、幼いマティルダは全く無邪気に振舞いながら奇想天外な方法により手厳しい仕返しを続ける。最初はまだかわいいものだが、超能力覚醒後はやることなすこと、一歩間違えればスプラッターすれすれ。それでも「大いに笑える事件」で済まされるのは、本作を「ホームアローン」の路線上にある『大人と子供のしょうもない喧嘩』として演出しているからだろう。
喧嘩はやがて、マチルダが通う学校に持ち込まれる。対峙するは、ダンブルドア校長の様な思慮深さをまるで感じさせない、もはや精神年齢が低いかどうかというレベルではなく、パワー系、児童に平気で手をあげるヤバい校長先生。元オリンピックの槍投げ・砲丸投げ・ハンマー投の選手の杵柄生かして。初っ端からガキにジャイアントスイング…の時点で僕らは唖然とさせられるだろう。
その後も、女の子のお下げ髪をつかんで円盤投げのように投げ飛ばしたり、男の子の耳をつまんで持ち上げたり、食いしん坊の男の子を拳骨するぞと脅して山のように盛られたチョコレートケーキの完食を強いたり(なお完食しても結局殴る模様。)彼女の蛮行はとどまるところを知らない。
鼻持ちならないおばさん、すなわち「アスカバンの囚人」冒頭の招かれざる来訪者:意地悪な親戚のマージさんが、マチルダ(そして学校に通う子供たち)最大の強敵:約束のネバーランドでいう農園職員の「ママ」として出現する。おかげで中盤からは、「マチルダが次に何するか」よりも、「校長先生が次に何するか」に視線が釘付けだ。
じっさい、演じるパム・フェリスは、いくら巨体でも全身に無茶をかけすぎて、撮影中生傷が絶えなかった様だ。
マチルダの味方になってくれる大人も存在する。少し頼りない感じがするけれど、担任のハニー先生だ。
ハニー先生がマチルダに英才教育をしたいと思い、ハリーとジニアに相談に行く。さりげなく、ハリーとジニアの出自と、その出自からくるマチルダへの無理解の理由が判明する、コミカルだけどよくよく聞くと深刻な一幕、の台詞を以下引用。
Zinnia Wormwood: Look, Miss Snit, a girl does not get anywhere by acting intelligent! I mean, take a look at you and me. You chose books - I chose looks. I have a nice house, a wonderful husband... and you are slaving away teaching snot-nosed children their ABCs. You want Matilda to go to college? Ha, ha, ha, ha...
Harry Wormwood: College?
[scoffs]
Harry Wormwood: I didn't go to college. I don't know anybody who did. Bunch of hippies and cesspool salesmen, ha ha ha ha...
Jenny: [insulted] Don't sneer at educated people, Mr. Wormwood. If you became ill, heaven forbid, your doctor would be a college graduate.
Harry Wormwood: Yeah...
Jenny: Or - or say you were sued for selling a faulty car. The lawyer who defended you would have gone to college, too.
Harry Wormwood: What car? Sued by who? Who you been talking to?
Jenny: N-nobody.
[sighs]
Jenny: I can see we're not going to agree, are we?
最終的に、校長先生はマチルダの超能力にこてんぱんにされて這う這うの体で学校から立ち去る。
悪事が露見したハリーとジニアは、マイケルともども、高跳びすることとなる。マチルダのことを振り返りもしない原作と違って、ハリーとジニアがマチルダに最低限の愛を見せるところは、(監督夫妻がマーラ・ウィルソンと疑似的な家族関係のなかで撮影を行ったためか)なぜかほろりと泣かせるシーン。以下、ジニアがハニー先生に養育権を譲る書類にサインするシーンから台詞を引用。
[asked to sign Matilda's adoption papers]
Zinnia Wormwood: You're the only daughter I ever had, Matilda. And I never understood you, not one little bit... Who's got a pen?
自立した愛娘を送り出すかのように、まるで対等の人間であるかのように、ジニアはマチルダに最後の別れを、告げるのだ。
そして、無事にハニー先生に引き取られたマチルダが、二人で満足そうに幸福な生活を手に入れたところで締めくくられる。
本作は、2010年のミュージカル(およびその2022年の映画化)における「大人たちの圧倒的な力の前に委縮する子供たちの反抗」のトーンとは真逆、「エキセントリックで非常識な大人を、恐れると共に笑いとばしてみせる」ことで、実に突き抜けた爽快な、コメディ映画として仕上げられている。
「ホーム・アローン」が生み出した90年代ファミリー向けコメディ映画と、ロアルド・ダール作品の幸福な出会いといってよい、隠れた傑作だ。
長らく日本語版ソフトがVHSしか出ていなかった本作、各種配信サイト(具体的にはNetFlix)によって日の目を見たのも、うれしいところだ。
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![ドント・ウォーリー](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/15855897/profile_873ae2973c7bea4785b4e985586a30d5.jpeg?width=600&crop=1:1,smart)