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夕陽に始まる、日活ムードアクション最終作。「栄光への5000キロ」

自動車ラリー競技とは、特別な道路やトラックではなく、一般の公道や未舗装道路で行われる自動車レースの一形態のこと。アスファルト、土、砂、雪、氷など、さまざまな路面で構成された複数のステージを走行し、それらをできるだけ短い時間で走破することを目指す、過酷な競技。
ラリーは通常二人乗り。ドライバーと協力してコースをナビゲートするコ・ドライバー(またはラリーナビゲーター)が同乗し、進行情報や障害物、方向などを指示、ドライバーにとって非常に重要な役割を果たすのも、一つの大きな特徴だ。

その国際的な大会、世界ラリー選手権(WRC)のひとつ、サファリラリーに1966年、日産チームブルーバード410で参加、クラス優勝、チーム優勝を成し遂げた実績を、時の大スター石原裕次郎が1969年に映画化したのが「栄光への4000キロ」だ。

日本で初めてと言える本格的インターナショナル映画、海外大作ゆえのトラブルの数々、「映画はスクリーンで見るもの」という裕次郎の信念のもと1976年のテレビ放送来長年人目に触れなかった、2011年の上映復活まで結果として幻想ばかりが肥大化した本作…。
その他ガチ封印作品と違って、今では配信でも観られるのがありがたいところ。


さて、肝心の中身はといえば、なんてことはない。そんな肩ひじ張ってみる必要はない。60年代前半の裕次郎が主演を張った日活ムードアクションの番外編にして最終作、というべきものだ。

「日活ムードアクション」とは…
宣伝コピーとしては「夕日の丘」(1964)から使われ始めた、主に、石原裕次郎と浅丘ルリ子共演の作品を指し、劇中で石原裕次郎の歌がたっぷり披露される。すでに青春期を過ぎた大人同士の出会いがメインであるため、過去への固執や、互いの政治性、金銭的解決などが特長。 広義のムードアクションは、「銀座の恋の物語」(1962)「憎いあンちくしょう」(1962)「何か面白いことないか」(1963)~「波止場の鷹」(1966)辺りまでを指す。

まずは、映画最初の5分40秒のプレビューを観てほしい。

本作で裕次郎演じるはプロレーサーの五代高行。
南の島の夕焼け沈む浜辺に座る五代。「トラベリンゴ、トラべリンゴ…」と南国ムードの曲調でしみじみと口ずさむ五代。壮大な風景の中、気のしれた仲間たちに囲まれて、はしゃいでいる裕次郎が大映しになる姿で、つかみはばっちりだ。
続いて、黛敏郎の手によるエレガントでインターナショナルな劇伴がしみじみ鳴り響く中、レース毎にチームと契約するフリーランスとして、クルーと共に海外の各種レースに参加・活躍する様が、スタッフロール流れる中に描かれる様は、否応が無しに映画への期待を高めてくれる。

物語は、五代のレースシーンと、五代と浅丘ルリ子演じる恋人:坂木優子のメロドラマを交互にインサートして展開される。
レースに埋没していく五代と、彼とのすれ違いに孤独を感じ始めている坂木は、大人すぎる、昼ドラ真っ盛りの、だがせりふ回しは上品な会話を、ことあるごとに鋭く交わす。
方や、レース描写は、フィックス多用でスピード感をあまり感じさせてくれず、どこか大時代的。
恋人との関係は膠着しレースでも勝ち星を得られない五代の焦燥。映画は、その焦りを知らないかのように、五代が参加したモンテカルロのレースにおけるアクシデントと悪夢と復活劇を挟んで、3時間のうち2/3は、ゆっくりと、まどろむように展開される。

映画後半から本編:日産が撮影に全面協力のサファリラリーの話となる。アフリカの土の道を走るカットは、フィックスでも上品にはならず土埃で荒々しく、画面の強度を上げる。砂埃をあげる困難なレースの生々しい感じ、困難にもがく五代の表情がを出したかったのだろう。

最終的に五代は、ラリーを完走しかつ優勝。困難を乗り越えたところで「男らしさ」を取り戻し、駆け寄った坂木は、涙ながらに彼を抱きしめてエンド。ルリ子の華奢な体の線に、裕次郎のがっちりとした体の線が、よく似合うと思わされる瞬間だ。


総じて、大作感&期待を満足させるレベル感でいうと、同じく長らく封印状態だった「黒部の太陽」には劣る。が、長期アフリカロケとフランス俳優や女優との絡みを巧みに生かして、邦画には中々ないモダンな雰囲気を、今なお感じさせてくれるのは、見事の一言。
レース部分だけ見たければ、途中スキップしてもかまわない。カーレースへのロマンを感じさせてくれる、手堅い大作といえるだろう。


なお、監督の蔵原惟繕は、1988年に高倉健と桜田淳子を主役にパリ・ダカールラリーをテーマとした「海へ 〜See you〜」を発表している。


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ドント・ウォーリー
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