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第60回アカデミー賞受賞作「ラスト・エンペラー」_王座の誇りを、垣間見る?

3歳、8歳、15歳と、それぞれの年齢の主人公に扮する少年たちの素晴らしさと、言うまでもなく紫禁城の美しさ、坂本龍一のメロディアスな音楽に魅了される前半。
民衆の怒りと時代のうねりに巻き込まれていく溥儀の悲しみがせつせつと伝わってくる後半。
流麗な演出と美しい映像で、第60回アカデミー賞においてノミネートされた9部門すべてを制覇するという快挙を成し遂げたのが、ベルナルド・ベルトルッチ監督の「ラストエンペラー 」だ。

STORY
1950年、太平洋戦争の終結と満州国の崩壊により、共産主義国家として誕生した中華人民共和国の都市、ハルピン。ソ連での拘留を解かれた中国人戦犯でごった返す駅の中に、ひとり列から離れ、自殺を試みようとする男の姿があった。彼こそは、清朝最後の皇帝、溥儀・・・。
薄れゆく意識の中で、彼の脳裡には様々な過去が蘇る―僅か三歳での即位。紫禁城での退屈な日々と、英国人教師に教えられた西洋文明。しかし、平穏な日々はいつまでも続かず、歴史の波は猛然と彼に押し寄せる。クーデーターによる失脚、南京大虐殺、終戦、そして文化大革命 ・・・。

STAFF
●監督:ベルナルド・ベルトルッチ
●脚本:マーク・ペプロー、ベルナルド・ベルトルッチ
●製作総指揮:ジェレミー・トーマス
●撮影監督:ヴィットリオ・ストラーロ
●衣裳デザイン:ジェームス・アシェソン
●音楽:坂本龍一、デヴィッド・バーン、スー・ソン
CAST
ジョン・ローン、ピーター・オトゥール、ジョアン・チェン、坂本龍一、
ヴィヴィアン・ウー

キングレコード 公式サイトから引用


とはいえ163分。ものすごく長い映画だ。見終わって最後、美しく瞼の裏に残るのは、始まりと終わり、綺麗につながって円を描く「2つの王座」のみ。


王座にのぼる。


1908年12月2日、北京。
先代の皇帝の崩御に伴い、まだ3歳で溥儀が新皇帝として即位する。即位式の日、家臣たちが三跪九叩頭の礼で新皇帝に拝礼する最中、何も知らない溥儀は、コオロギの鳴き声を追いかけるのみ。「僕はお城の王様だ」と紫禁城を遊んで回る。彼にとって、紫禁城は自分の庭同然だった。

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城を追放されて以後、彼は苦難の道を歩むことになる。
満州国の仮初の王座に就かされ、満州国崩壊後は、収容所で「ただの人間」になることを強いられる・・・。

大人になった溥儀は、周りが見えてくる、「清朝最後の王」という肩書だけで、自分を皆が利用していることが分かるからこそ、醒めている。
あたかも「俺はまだ本気出してないだけ」「ただ仮初に身をやつしているだけ」といった態度で、時に必死で、時にスカしつつ、月日を怠惰に重ねていく。

大部分の尺を割いている満州国パートのドラマが薄いように時に感じるのは、そういう主人公の「思い入れのなさ」=必死に生きる生気が乏しいせいも、あるだろう。


王座に帰る。


時は経って1967年、折しも文化大革命の嵐。

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北京に戻った溥儀は、博物館として一般公開されている紫禁城へ、そしてかつては自分のものだった玉座へと赴く。
そこには彼の顔も知らない博物館の守衛の子供が一人いるだけ。
玉座への立入をとがめる子供に「昔ここに住んでいた」と語る。溥儀は皇帝だった証拠として、幼い頃玉座の隅に隠し持っていたコオロギの壷を手渡す。
そして子どもが目を上げたとき、そこにはもう溥儀の姿はなかった。

こう書くとあっさりだが、しかしこのラストシーンは、霊験を得る感すらある。
彼の居場所は、結局、紫禁城にしかなかった。
だから、王座に座った時、よぼよぼの老人の身体は、覇王のような煌めきを一瞬放つ。少年だけが、最後の王としての誇りを、垣間見る。それも幻となってかき消えて…映画は、終わる。

物語がぐるりと弧を描いて収束する瞬間。それは厳かでとても美しい。

画像はCriterion公式サイトから引用しました

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ドント・ウォーリー
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