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花に嵐の映画もあるぞ(邦画編)。

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わたしの好きな映画を、「褒めること」意識してつらつら書いていきます。 取り上げる映画は、時にニッチだったり、一昔前だったりしますが、 そこは「古いやつでござんす」と許して、ご容赦…
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2023年7月の記事一覧

タップダンスの静と動に、酔え! 水谷豊の「TAP the last show」

とある理由から大きな怪我を患い、一線を退いたタップダンサー・渡新二郎(演:水谷豊)。10数年を経て、渡は足を引きずり、酒におぼれる毎日を送っていた。 そんな渡が旧知の劇場支配人・毛利(演:岸部一徳)から「最後のタップダンス・ショーを演出してほしい」という相談を持ちかけられる。 ラスト・ショーに向けた、渡の戦いが、始まった…。 東映はおろか、最近の邦画にも類を見ない一本。昭和の時代に舞い戻ったような「モダン」な映画だ。 探偵事務所の様な水谷豊の靴工房、ダンサーたちが集う、ネオ

男と女が、するりと抜ける、互いのしっぽを追いかけ合う、88分。「洲崎パラダイス 赤信号」

東京洲崎遊廓の入口の飲み屋を舞台にした、しかしまったくエッチじゃない、「赤線」も「ぬけられます」も存在しない、不思議な世界観。 人物名ヌキでストーリーを要約すると、こうだ: 根無し草の男と女がいる。二人は口が悪いながらも、互いを好き合っている。 東京湾近くの場末の街:洲崎に流れてくる。 二人は今度こそ此処に終の住処を見つけようとするが、そこは「結婚した途端そりの合わなくなるカップル」のようなもので、腰を落ち着けた1日目にさっそく喧嘩別れする。 別れた二人は、それぞ

一人芝居に監督が酔うのも、いい加減にしろよ。 仲代達也主演「海辺のリア」。

小林政広監督が、「春との旅」「日本の悲劇」に続いて仲代達矢を三度、主演に迎えて描いた2017年の映画「海辺のリア」。 仲代達也が演じるは、かつては大スターとして映画や 舞台で活躍した桑畑兆吉。認知症の 疑いがある兆吉は、家族に騙され、遺書を書かされた挙句、高級老人ホームへと送り込まれる。ある日、その施設から脱走した兆吉は、シルクのパジャマ姿にコートをはおり、スーツケースをひきずり、あてもなく海辺をさまよう。 なんとなくお分かりの通り、本作は仲代達也のシェイクスピア俳優として

東映ヤクザ映画の残り火。そしてはじまり。「日本で一番悪いやつら」

実在の事件をもとに描いた「凶悪」で一躍人気を得た白石和彌監督が、2002年の北海道警察で起こり「日本警察史上最大の不祥事」とされた「稲葉事件」を題材に描いた2016年の映画「日本で一番悪いやつら」より。 鑑賞したのは今は亡き渋谷東映。 見終わった後に残るのは、非常に「もやもやした」感覚。 観る者を心ゆくまで楽しませた上で、社会に潜む問題の提起は忘れない。 かっちりした骨組みを持つ「社会派エンタメ」作品だ。 綾野剛演じる諸星は、ゆすり・騙り・暴力と手段を選ばず捜査を進める野