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土地は「どの道から訪れるか」でその顔を変える 『マタギドライヴの旅』 #4
8月13日の朝、僕たちは秋田の阿仁へと出発した。羽田空港から発つ行きの飛行機は、朝の7時の便を手配していた。だから比較的都心に暮らしている僕も5時には起きなければいけなかった。台風については、前の晩からあるレベルでは安心していた。奥羽山脈を超えて秋田県北部を直撃した台風は前日のうちに日本海に抜けていて、少なくとも東京は晴れていた。現地の秋田も雨がちではあるけれど風は止み、飛行機が欠航するリスクはなくなっていた。しかし益田さんは森の中の地面がぬかるんでいること、そして川が増水していることを指摘し、1日目に予定していた川に降りる行程をキャンセルしたいと伝えてきた。僕は益田さんのこの素早い判断を見て、やっぱり信頼できる青年だと感じた。
空港ではマイナーな路線が搭乗口や滑走路で冷遇されることが多いが、この羽田ー秋田便がまさにそうだった。僕は新宿からシャトルバスで羽田空港に向かい第1ターミナルで降りたのだけれど、そこからが長かった。北ウイングのほとん先っぽまで歩いて、さらにエレベーターで1階に降りた。そしてそこからバスに乗り登場機に向かった。想像よりだいぶ長い行程で、朝からなんだか疲れしてしまった。この空港内の移動で、落合君やスタッフたちと合流……というか顔を合わせたのだけど、僕たちは総勢10名近いパーティーだったので、搭乗すると小さな機体の少ない座席の何割かが関係者で埋まっている感じになっていた。この距離の国内線の飛行はほとんど「飛び立って降りる」のに近く、僕たちを乗せた飛行機は僕がちょっとうとうとしている間に秋田空港に着陸していた。改めて空港の到着ゲート前に集合した僕たちはPLANETS(「モノノメ」編集チーム)と、楽天大学ラボ(動画)のチームに分かれて、レンタカーに乗って、阿仁に向かう手はずになっていた。
天気予報通り、秋田は曇り空でいつ降ってきてもおかしくないと思わせた。山の中で降られたらきついな、とか考えながら僕たちは空港のカウンターにいたスタッフに連れられて、少し離れたレンタカー屋の店舗に連れて行かれた。平日午前中の早い時間だったせいか、店舗にもスタッフはほとんどいなくて、カウンターに20代の男女が一人ずついるだけだった。レンタカー屋という商売の性質上にぎやかにする必要もないのだろうが店内は殺風景で、この種の施設にありがちな観光ポスターの類もほとんどなかった。曇り空のせいもあって、店内には不穏な空気すら感じられた。村上春樹の小説にこういった地方の殺風景なレンタカー屋が、それこそ不吉な予感を与えるものとして登場したことがあったたような気がしたが、今の今までそれが実在するのか、実在したとしたらどんな小説だったかは未だに思い出せないでいる。
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6人乗りのバンを借りた僕たちはまず、角館を目指した。理由は益田さんから、僕と落合君だけでも可能なら電車で阿仁に入ってほしいと言われていたからだ。その方が、阿仁という土地がどういう場所か感じやすいはずだと、彼は主張していた。角館から秋田内陸線というローカル線に乗ると、阿仁に至るまでに長いトンネルをくぐることになる。このトンネルを通過して阿仁に入ってほしいと、彼は言ったのだ。
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u-note(宇野常寛の個人的なノートブック)
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