自民総裁選/立憲代表選の最良/最悪のシナリオについて
さて、今日は久しぶりに政治の話だ。
自民党の総裁選に高市早苗が勝利する可能性がある程度出てきたのだが、これはかなり危険なことのように思う。単純に彼女の保守イデオロギーの強さにまったく感心できないというのもあるのだけれど、それ以上に高市が首相になった場合、第二次安倍政権以上に国会が機能しなくなる可能性が高いと思われるからだ。
彼女の保守層へのマーケティング的な言動は、リベラル層の強い反発を呼び、野党(具体的には立憲民主党など)はさすがにこれを看過すると党是が危うくなると判断して、対決姿勢に傾くだろう。
高市のパフォーマンスはおそらく選択的夫婦別姓など、文化/社会領域の問題で発揮される。外交、軍事的には日本にそもそも選択肢はなく、よほどの安定政権にならない限りリップサービスとしてはともかく、実際には改憲は検討されない(政権運営的なデメリットが大きすぎる)。したがって、高市の保守層へのアピールは選択的夫婦別姓や同性婚の実質的な否定によって行われることになる。これはこの国の社会を大きく後退させるだろう。
そして野党はこの高市政権の悪質な保守マーケティングに強い批判を加えるしかない。つまり、与野党ともに自分たちの岩盤支持層にアピールし、党内基盤を盤石にするゲームをプレイすることになる(そのことにインセンティブが発生する状況になる)。こうして再分配の再設計(社会保障改革)や、成長戦略といった「本当の課題」は後景に退くことになる。そしてもし、立憲民主党の代表が枝野幸男になればこの傾向はより加速するだろう。そして立憲民主党が旧社会党的な敗北主義に陥ることは、具体的には立憲共産党体制の強化と、日本維新の会との連携の可能性の消滅は決定的に政権交替の可能性を失わせる。
繰り返し述べるが、日本維新の会はネトウヨや差別主義者を排除し、立憲民主党は共産党と距離をおき、この二者が連携する以外に政権交代の可能性はない。しかし「高市早苗VS枝野幸男」の構図が完成すると、与野党は内向きのアピールにそのリソースを割くだろう。そうすることにインセンティブの発生する状況が生まれるからだ。高市は本気でもない「改憲」を掲げ、人気取りのために歴史修正主義や差別主義に接近して、枝野とその仲間たちはそれを徹底的に批判する(それ自体は正しい)ことに存在意義を見出す。しかし、本当にいま、国会で議論しなくてはいけないのは他の問題のはずだ。
僕は石破/小泉の率いる中道化した自民党と、野田率いる立憲民主党を中心とした(そして「きれいになった」維新がそこに参加した)野党が、再分配や成長戦略をめぐるテクニカルな議論を、地味だけどしっかりと内容のある議論を、イデオロギーで寂しい人を元気にしないけれど国民の生活を豊かにすることのできる施策の検討を、国会でしてほしいと思う。この「地味で、技術的な国会」こそが、僕たちロスジェネ世代が平成の政治改革に夢見た国会のはずなのだ。
そのためには、自民党には石破/小泉のもとで中道化してもらう必要があるし、立憲民主党も野田のもとで中道化してもらう必要がある。
なぜ「自民党」だけではダメなのか。
ここから先は
u-note(宇野常寛の個人的なノートブック)
宇野常寛がこっそりはじめたひとりマガジン。社会時評と文化批評、あと個人的に日々のことを綴ったエッセイを書いていきます。いま書いている本の草…
僕と僕のメディア「PLANETS」は読者のみなさんの直接的なサポートで支えられています。このノートもそのうちの一つです。面白かったなと思ってくれた分だけサポートしてもらえるとより長く、続けられるしそれ以上にちゃんと読者に届いているんだなと思えて、なんというかやる気がでます。