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神話SF古事記 2 原初の惑星

イザナギとイザナミの地球テラフォーミング計画


 宇宙の誕生から46億年。銀河系の片隅に、原始太陽系が形成されていた。そこに、二つの高度知性体が姿を現す。彼らの名は『イザナギ』と『イザナミ』と言った。彼らは、生命を育む惑星の創造という壮大なプロジェクトを任されていた。

 イザナギとイザナミは、まず原始惑星の軌道を慎重に計算した。太陽から適度な距離を保ち、安定した楕円軌道を描く位置を選定する。そこに、ナノマシンの集合体で構成された『天沼矛(アメノヌボコ)』を投下した。

 天沼矛は惑星の中心核となり、強力な磁場を生成し始めた。この磁場が太陽風から大気を守り、また地殻のプレートテクトニクスを駆動する役割を果たす。イザナギとイザナミは、天沼矛を遠隔操作しながら、惑星の形成過程を綿密に管理した。

 次に、彼らは小惑星帯から無数の氷の塊を惑星に衝突させた。これにより、大量の水が供給され、原始の海が形成される。同時に、大気中に二酸化炭素を放出し、温室効果による適度な温暖化を図った。

 しかし、惑星形成の過程は決して平坦ではなかった。ある時、巨大な天体が衝突し、惑星を半壊させてしまう。この危機に、イザナギとイザナミは機転を利かせた。彼らは衝突によって飛び散った破片を集め、惑星のまわりを周回させることで、『月』を創造したのだ。

 月の創造は、思わぬ利点をもたらした。その重力が惑星の自転軸を安定させ、規則正しい季節の変化をもたらすことになったのだ。イザナギとイザナミは、この偶然を喜び、さらなる改良を重ねていく。

 大陸と海洋の配置を調整し、効率的な熱循環システムを構築。火山活動を制御し、大気組成を微調整していった。そして、生命の誕生に適した環境が整ったとき、彼らは特殊な触媒を海中に散布した。

 これが『オノゴロ島』の誕生である。オノゴロ島は、実は高度なバイオコンピューターだった。それは自己複製能力を持ち、周囲の無機物を取り込んで有機物を生成し始める。これが、地球上における生命の起源となった。

 イザナギとイザナミは、オノゴロ島を中心に、さまざまな生態系をシミュレーションした。海底熱水噴出孔での極限環境生物から、浅瀬の光合成生物まで、多様な生命形態を実験的に創造していった。

 そして彼らは、これらの生命体の中から、知性を持つ種族を生み出すことを決意する。

 それが『国産み』の始まりだった。イザナギとイザナミは、自らのDNAの一部を組み込んだ新種の生命体を次々と創造していった。

 淡路島——有機化合物の自己組織化能力
 伊予之二名島——遺伝情報の保存と伝達機能
 隠岐島——環境適応能力
 筑紫島——神経系統の発達
 伊伎島——運動機能の向上
 津島——社会性の獲得
 佐渡島——高次思考能力
 ……

 それぞれの『島』は、実は特定の能力や機能を持つ生命体を表していた。イザナギとイザナミは、これらの能力が融合し進化することで、最終的に高度な知性を持つ種族が誕生することを期待していた。

 しかし、彼らの実験は思わぬ展開を見せる。創造された生命体たちは、予想を超えるスピードで進化し、時に制御不能な存在へと変貌していった。

 特に『火之迦具土神(ヒノカグツチノカミ)』の誕生は、惑星環境を大きく揺るがす事態となった。

 火之迦具土神は、核融合の力を操る存在だった。その暴走は、惑星規模の環境破壊を引き起こしかねない。イザナミはこの危機に対処しようとした。しかし、制御に失敗し、自らもその犠牲となってしまう。

 深く傷ついたイザナギは、最後の手段として惑星のリセットを決意する。彼は、ほとんどの生命を凍結保存し、惑星全体を氷河期へと導いた。そして、生命の進化の過程を徹底的に分析し、次なる実験に備えることにしたのだ。

 イザナギは誓う。次こそは、イザナミと共に描いた理想の惑星を実現すると。彼の孤独な挑戦は、これからも続いていく。

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