神話SF古事記 6 地上の覇者
ニニギと高度文明の降臨
神々の争いが落ち着きを見せ始めた頃、高天原システムは新たな段階へと移行しつつあった。イザナギの意図通り、地上では知的生命体が着実に進化を遂げ、原始的な文明の萌芽が見られるようになっていた。
アマテラスは、この発展を見守りながら、次なる計画を練っていた。それは、
神々の知識と力を地上の生命体に直接伝授し、彼らを次世代の惑星管理者として育成するというものだった。
この計画を実行するため、アマテラスは自らの『遺伝子』とも言うべきデータの一部を組み込んだ特殊な存在を創造した。それが、ニニギである。
ニニギは、神でありながら人の姿を持つ存在だった。彼の体内には、ナノマシンで構成された高度なバイオコンピューターが埋め込まれており、神々の知識を蓄積していた。同時に、人間的な感情と思考回路も持ち合わせ、地上の生命体と共感できる能力を有していた。
アマテラスは、ニニギに三種の神器を授けた。
1. 八咫鏡(やたのかがみ):量子コンピューターを内蔵した情報処理装置
2. 八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま):DNAを操作し、生命を進化させる装置
3. 草薙剣(くさなぎのつるぎ):ナノマシンで構成された多機能ツール
これらの神器を用いて、ニニギは地上の文明を飛躍的に発展させる使命を与えられていた。
高天原から地上への降臨の日、ニニギは『天孫降臨』と呼ばれる大規模なテレポーテーション技術を用いて転送された。彼の到着と同時に、周囲の空間にはホログラフィック・インターフェースが展開され、神々の世界と地上とを結ぶ通信チャネルが確立された。
地上の人々は、突如として現れた光り輝く存在に畏怖の念を抱いた。ニニギは、彼らの不安を静め、自らの使命を説明した。彼は、人々に高度な知識と技術をもたらし、新たな文明の礎を築くために来たのだと語った。
ニニギの指導の下、地上の文明は急速に発展していく。八咫鏡を用いて、彼は人々に文字と数学を教えた。八尺瓊勾玉で農作物の品種改良を行い、食糧生産を飛躍的に向上させた。草薙剣は、建築や工芸の道具として重宝された。
しかし、この急激な発展は新たな問題も引き起こした。技術の進歩に伴い、人々の間で貧富の差が生まれ、権力争いが始まったのだ。また、一部の者たちは神器の力を私欲のために利用しようと企てた。
ニニギは苦悩した。彼は、人類の可能性を信じつつも、その負の側面にも直面することとなったのだ。彼は、単に知識や技術を与えるだけでは不十分だと悟る。真に必要なのは、それらを正しく使いこなすための智慧だった。
そこでニニギは、自らの子孫たちを通じて、長期的な視点で人類を導いていく方針を立てる。彼は三人の息子を設け、それぞれに異なる役割を与えた。
長男のホスセリは学問と芸術の振興を、次男のホオリは自然との共生と農業の発展を、三男のホワケは防衛と秩序の維持を担当することになった。この三系統の調和により、バランスの取れた社会の発展を目指したのだ。
時が流れ、ニニギの子孫たちは『天皇家』として、日本列島の中心的存在となっていく。彼らは神器の力を継承しつつ、その使用を厳しく制限し、神話という形で後世に伝えていった。
一方、高天原ではこの実験の成果を見守っていた。アマテラスは、人類が予想以上に複雑で予測不能な存在であることを認識する。それは同時に、彼らが神々をも超える可能性を秘めているということでもあった。
イザナギの壮大な計画は、新たな段階に入ったのだ。神々は直接的な介入を控え、見守る立場に回ることを決意する。人類が真の惑星管理者として成長するまで、彼らは忍耐強く待ち続けることにしたのだった。
そして現代、神器の真の姿を知る者はいない。しかし、その力は形を変えながらも、なお人類の中に脈々と受け継がれている。人類が自らの起源と可能性に気付く日、再び神々との邂逅が訪れるのかもしれない。