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【読書録】自らの道を切り拓く商人たち『チョンキンマンションのボスは知っている』


今回読了したのは、
『チョンキンマンションのボスは知っている アングラ経済の人類学』
著:小川さやか。
著者は、アフリカ経済を専門とする文化人類学者。
著者自ら行った調査を元に、中国へ集まる零細商人のビジネスやコミュニティの実態が描かれている。

世界に広まる、草の根経済

世界各地の商人が、模造品・コピー商品・中古品を仕入れるため、中国や香港に押し寄せている。
彼ら彼女らの多くは、組織だった会社員ではない。
ビジネスチャンスを求め、単身で異国にやってくる零細商人だ。
商人たちは、アプリやSNSを巧みに使い、法律をかいくぐり、ビジネスチャンスを虎視眈々と狙う。
国家や企業による正規(フォーマル)経済とは全く別の、草の根の非正規(インフォーマル)経済が形成され、世界に広がりつつあるのだ。

全ては、金儲けのため

アフリカ経済を研究するため香港にやってきた著者は、「重慶大厦(チョンキンマンション)のボス」を自称する男カマラの協力で、アフリカ系零細商人たちの日常を観察・研究していく。

インフォーマル経済というと、犯罪を厭わない荒くれ者かと思ってしまうが、実際に彼ら彼女らに接してみると危険な匂いは薄いという。
いちいち逮捕されれば商売ができないので、異国の商人たちも概ね法律は守っている。
(もちろん、ビジネスのためなら、法律の抜け穴を探したり、制度を悪用することも厭わないが)

商人たちの日々は、昼過ぎに目覚め、遅刻しながら取引先を周り、夜は溜まり場やパーティに顔を出し、明け方までくだらない動画をSNSに拡散し、朝方就寝する。
「誰も信頼するな」と言いながら、無償で助け合い、多くの人に頼られながら、誰とも徒党を組まず、国に残してきた妻や子供を愛していながら、現地の異性と結婚する。
その行動は、一見すると無駄が多く、矛盾して見える。
しかし、そこには生き馬の目を抜くようなインフォーマル経済を生き抜くための知恵と戦略が詰まっている。

全ては、金儲けのため。

新しい生き方を見つけるために、異国の地に飛び込んだ零細商人たちの生き様とインフォーマル経済の実態に迫る本である。

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