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夏の自由研究:奈良県十津川村の温暖化

▼今年の7月から8月にかけての猛暑で、奈良県吉野郡十津川(とつがわ)村の気温が近畿地方全体の最高気温になるという、たぐいまれなニュースに接しました。あの山奥の、いかにも涼しそうな場所が近畿地方の最高気温を記録するとは❗

▼ということで、今回は奈良県吉野郡十津川村の気温はどうなっているのかを調べてみました。以前、『和歌山紀北の温暖化編』というページで一度、気温データの追跡をしたことがあり、今回も過去の気温データをグラフにしてみました。


1.奈良県吉野郡十津川村の位置


▼まず、奈良県吉野郡十津川村の位置について、です。奈良県南部、あるいは紀伊半島のド真ん中、そして紀伊山地の険しい山中にある集落です。十津川は熊野川となって、太平洋(熊野灘)に流下します。したがって、十津川村は文化圏としては和歌山県北部よりも紀伊半島南東岸=熊野地方の影響を受けているといえるでしょう。ただし、管理人が普段シコシコと書かせていただいております「葬送」でいいますと、高野山真言宗の葬式仏教の文化が山々を越えて伝わっているようです。

▼さて、十津川の気象観測地点は十津川村風屋(かぜや)と呼ばれるところで、ここには風屋ダムという水力発電用のダムと湖があり、そのダムの場所にアメダスが設置されているようです。アメダスが設置されている地点の標高は301mです。

▼なお、これから示す気温データのグラフには、参考値として奈良市の奈良地方気象台のデータを添えています。下の地図でお解りの通り、奈良市の緯度は大阪市とほとんど同じです。なお、奈良地方気象台の標高は102mです。

(国土地理院電子国土基本図を管理人が加工したもの)

▼次に、風屋ダム周辺の地形を3D画像にしてみました。とにかく山奥です。

点線箇所が風屋ダムで、このあたりにアメダス観測所があります。(国土地理院電子国土基本図3Dを管理人が加工した)


2.奈良市と十津川村風屋の経年気象データ


▼十津川村風屋のアメダスデータは、1978(昭和53)年以降のものしかありません。そのため、じわりじわりと進む温暖化の具合を視覚化することは困難ですが、まあ試しにグラフを作成してみました。

(1)月別平均気温の年次推移
▼まずは、月単位の平均気温の年次推移を検討してみます。では早速グラフをどうぞ。赤色は風屋のデータ、灰色は奈良のデータで、各実数に加えて近似直線を引いています。なお、2024(令和6)年のデータは8月初旬までのものになります。
▼結果はご覧の通りです。近似直線は、風屋、奈良市ともに低下、横ばいはなくすべての月で上昇傾向にあります。


(2)最低気温が25℃以上の日数の年次推移

▼このデータは、最低気温が25℃を下回らなかった日数、すなわち「熱帯夜」の年間日数を示しています。結果はご覧の通りです。風屋の夜は涼しいようです。


(3)最高気温が30℃以上の日数の年次推移

▼このデータは、いわゆる「真夏日」の年間日数を示しています。結果はご覧の通りです。風屋の夏の昼間は暑くなりつつあるようです。


(4)最高気温が35℃以上の日数の年次推移

▼このデータは、いわゆる「猛暑日」の年間日数を示しています。結果はご覧の通りです。やっぱり、風屋の夏の昼間は危ないほど暑くなりつつあるようです。


(5)最低気温が0℃未満の日数の年次推移

▼このデータは、いわゆる「冬日」の年間日数を示しています。結果はご覧の通りです。風屋の冬は暖かくなりつつあるようです。


3.奈良県吉野郡十津川村風屋の気象記録


(1)日の最高気温(℃)
1978(昭和53)年8月1日 34.3℃からスタート
1979(昭和54)年7月26日 34.3℃
1979(昭和54)年7月30日 34.4℃
1979(昭和54)年7月31日 35.5℃
1990(平成2)年7月22日 35.5℃
1990(平成2)年8月4日 35.8℃
1990(平成2)年8月5日 37.1℃
1990(平成2)年8月6日 38.1℃
1994(平成6)年8月6日 38.4℃
1994(平成6)年8月7日 39.0℃
2013(平成25)年8月12日 39.4℃
2020(令和2)年8月17日 39.4℃
2024(令和6)年8月2日 39.9℃ 今年更新!
十津川は山間部だから、昼間は多少涼しいという予断は誤りです。平地でもなかなか記録しないような、ぶっ飛び記録が30年前から更新され続けていることが判明しました。

(2)真夏日(最高気温30℃以上)の連続日数(日)
1978(昭和53)年7月2日~9日 8日間からスタート
1978(昭和53)年7月18日~28日 11日間
1979(昭和54)年7月24日~8月6日 14日間
1983(昭和58)年7月24日~8月12日 20日間
1990(平成2)年7月17日~8月8日 23日間
1995(平成7)年7月24日~8月29日 37日間(今年は34日間でした!)

(3)猛暑日(最高気温35℃以上)の連続日数(日)
1990(平成2)年8月3日~8日 6日間からスタート
1995(平成7)年8月1日~9日 9日間
2013(平成25)年8月7日~16日 10日間
2024(令和6)年8月1日~15日 15日間 今年更新!

(4)日の最低気温(℃)
1977(昭和52)年12月29日 -2.4℃からスタート
1978(昭和53)年1月10日 -2.6℃
1978(昭和53)年1月26日 -3.6℃
1978(昭和53)年2月1日 -4.5℃
1981(昭和56)年2月26日 -7.1℃
1981(昭和56)年2月27日 -7.2℃
※これ以降は更新されていません。

(5)冬日(最低気温0℃未満)の連続日数(日)
1977(昭和52)年12月23日~24日 2日間からスタート
1977(昭和52)年12月28日~29日 2日間
1978(昭和53)年1月9日~10日 2日間
1978(昭和53)年1月20日~26日 7日間
1978(昭和53)年1月29日~2月4日 7日間
1980(昭和55)年2月9日~17日 9日間
1981(昭和56)年1月8日~18日 11日間
1981(昭和56)年1月26日~2月7日 13日間
1983(昭和58)年2月4日~16日 13日間
1984(昭和59)年1月25日~2月12日 19日間
1986(昭和61)年1月26日~2月13日 19日間
1996(平成8)年1月24日~2月12日 20日間

(6)1時間降水量(㎜)(時間帯は不明)
1977(昭和52)年12月31日 7㎜からスタート
1978(昭和53)年4月12日 7㎜
1978(昭和53)年5月19日 8㎜
1978(昭和53)年6月16日 8㎜
1978(昭和53)年6月19日 11㎜
1978(昭和53)年6月22日 12㎜
1978(昭和53)年6月23日 22㎜
1978(昭和53)年7月1日 23㎜
1978(昭和53)年7月12日 26㎜
1979(昭和54)年8月15日 36㎜
1981(昭和56)年7月15日 41㎜
1986(昭和61)年7月13日 41㎜
1987(昭和62)年7月19日 43㎜
1989(平成元)年9月19日 49㎜
1990(平成2)年9月19日 61㎜
2009(平成21)年8月10日 62㎜
※参考までに、管理人の現住地は時間雨量50㎜で車が床下浸水しました。

(7)一日総降水量(㎜)
1977(昭和52)年12月31日 30㎜からスタート
1978(昭和53)年5月18日 34㎜
1978(昭和53)年6月19日 44㎜
1978(昭和53)年6月22日 44㎜
1978(昭和53)年6月23日 107㎜
1979(昭和54)年6月27日 138㎜
1980(昭和55)年9月10日 139㎜
1982(昭和57)年8月1日 211㎜
1989(平成元)年9月19日 217㎜
1990(平成2)年9月19日 291㎜
1994(平成6)年9月29日 344㎜
1997(平成9)年7月26日 436㎜
2011(平成23)年9月2日 457.5㎜
2011(平成23)年9月3日 591.5㎜

(8)連続して雨が降らなかった日数(日)
1978(昭和53)年1月4日~7日 4日間からスタート
1978(昭和53)年1月27日~2月5日 10日間
1978(昭和53)年2月13日~27日 15日間
1980(昭和55)年1月31日~2月18日 19日間
1984(昭和59)年9月21日~10月15日 25日間
1995(平成7)年7月31日~8月26日 27日間
1997(平成9)年10月15日~11月11日 28日間

4.参考:7月から9月までの平均気温・最高気温の変化


▼人間、ある一定年齢以上になると、毎年夏場に「いったいいつになると涼しくなるのか」と考えるようになるものです。特に、朝晩が涼しくなると「ああ、今夏も生き抜くことができそうだ」という先行きが見えてくるような気がします。
▼そこで、7月1日~9月30日の日の平均気温と最高気温を、1978(昭和53)年から2023(令和5)年までの約45年分重ねてみました。

(1)7月~9月の平均気温の年次推移
▼凡例の文字が小さいので適宜拡大して下さい。色が赤に近づくほど最近のデータになります
▼明らかに温暖化が進行していることは言うまでもありませんが、大まかには、平均気温のピークは8月上旬で、お盆を過ぎると平均気温がおおむね低下していくことが読み取れます。。

(2)7月~9月の最高気温の年次推移
▼凡例の文字が小さいので適宜拡大して下さい。色が赤に近づくほど最近のデータになります。
▼最高気温に関しては、温暖化云々をグラフから確認することはできません。しかし、身体は「日本の夏は35℃超えが当然」として順応しているため、もはや30℃でも涼しいと感じるようになっています。十津川村の場合、30℃くらいにまで最高気温が低下するのは9月に入ってからということになりそうです。




▼今回、気温データを中心に、奈良県吉野郡十津川村における温暖化の視覚化を試みました。その結果、以下の3つの知見が得られました(地元の観光業界の方々すみません・・・)。

(1)十津川の温暖化は着実に進行している。
(2)夏場の十津川は暑い。
(3)しかし、夏場の十津川の夜間はめちゃくちゃ涼しい。

▼上記(3)は、これほどまでに暑いと、さぞ熱帯夜もひどかろうと思いきや、さきに示した「最低気温が25℃以上の日数の年次推移」のグラフにみるように最低気温25℃以上の連続日数記録はせいぜい2~3日間といったところです。
▼この記事、お盆にアップ予定だったのですが、真夏日と猛暑日の連続日数が更新され続けていたため、今になっての更新となりました・・・お疲れさまでした!!


文献


気象庁HP(各種データ・資料 (jma.go.jp)
●グラフはすべて管理人が作成したもの。

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