
p.186|冬の始まり告げるのは白い息でもマフラーでもない。僕にとってはこの朝日だった。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが僕の思考を妨げた。今日も退屈極まりない箱の中で退屈極まりない時間を過ごしていく。
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一日一鼓 Ⅰ 11月交差点『“ただの”17歳の誕生日』
冬の始まり告げるのは白い息でもマフラーでもない。僕にとってはこの朝日だった。刺すような、それでいて高くから俯瞰しているかのよう。そんな日差しが僕は好きだった。
今日も退屈極まりない箱の中に向かっていく。去年も、先週も、昨日も、今日も、明日もずっとそうなんだと思う。でもこの季節が一年に一度来るのなら退屈極まりない箱に向かうための朝も耐えられる。
「ハナ!おめでと~!!!」
廊下から聞こえてくる甲高い声に鬱陶しさを覚えるようになったのはいつからだろう。小さなロッカーにお菓子や写真やキラキラした何かを詰めてサプライズ…。「Happy birthday」と書かれたタスキをかけてオモチャのティアラまでつけて。正直言って僕には理解できない。されてる側だって本当は「サプライズ」にsurprisedなんてしてなくてホッとしてたりして…なんてことすら考えてしまう。
世間の女子高生に聞いてみたい。
「自分の誕生日に何も準備されていなかったら?」
「自分の誕生日を誰も覚えていなかったら?」
“そんなこと考えたことない”なんておめでたい人だって世の中にはいるんだろうけど、僕はどうしてもそんなことを考えてしまって、ゾッとしてしまう。でもまぁ、僕の知ったことじゃない。だから僕は、誰にも言わずにひっそりと年をとっていく。ほら今日だって。
タスキやティアラをつけた彼女とは雲泥の差だけど、僕も今日17歳を迎えた。
彼女と同じように一歳年をとった。彼女となんら変わらないただの17歳になった。誰かに祝ってほしいとは思わないし、誰かに散財させてまで大して欲しくもないプレゼントを貰いたいとも思わない。ただ…ただ一つだけ願うなら…
キーンコーンカーンコーン
チャイムが僕の思考を妨げた。今日も退屈極まりない箱の中で退屈極まりない時間を過ごしていく。
“ただの”17歳の誕生日をいつもと少し違うものに変えたのは退屈極まりない1日の締めくくりに準備されていた15分間だった。
夜。
僕が乗るいつものバス停から次の停留所まで豆柴のシキブを連れて歩いてた。そしたらちょうどバスが来て、なんだか不思議な眼差しで花束を眺める女性が降りてきた。彼女は、いつもここからバスに乗ってくる30手前くらいのお花屋さんだった。
『一日一鼓 Ⅰ 』
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