見出し画像

Creepy Nutsを馬鹿にしている日本語ラップ通たちの首根っこを押さえて、新アルバムの神曲『フロント9番』を耳に流し込んでやりたい。

例のごとく犬と戯れながらリビングでテレビをぼーっと観ていると、ヒルナンデスにDJ松永が出ていて、今日リリースされたアルバム「アンサンブル・プレイ」の告知をしていた。

ぼくはクリーピーナッツが好きだ。「フリースタイルダンジョン」からヒップホップに入った世代にとって、あのときのモンスターたちはヒーローである。思えばラジオを聴き始めたのも、フリースタイルダンジョン全盛の時期に始まった、「Creepy NutsのオールナイトニッポンZERO」がきっかけだった。

「たりないふたり」に代表される初期の卑屈なリリックは、現在進行形でたりてないぼくにとって未だに共感できるものだし、売れてからの「生業」や「スポットライト」のような曲も「Creepy売れたな〜、すげ〜なー」という感動や「おれもビッグになりて〜な〜」という憧憬を持って素直に聴いていた。

しかし「かつて天才だった俺たちへ」辺りから雲行きは徐々に怪しくなり始め、「のびしろ」ではもうほぼラップをしなくなり、「堕天」に至っては完璧にアニソンである。

フリースタイルダンジョンで引くほど強かったころのR指定はもういないのか。完全なポップス路線になっちゃうんだったら、もういいかな〜、と厄介古参ファンみたいなことを思っていた矢先に、このアルバムである。いい意味でも悪い意味でも聴かずにはいられなかったので、吉祥寺に向かうバスの中で聴いた。



最高〜〜😭😭

R指定大好き〜〜😭一生着いてく〜😭😭

DJ松永も結構好き〜〜😭


ポップス路線に行くのではないかというぼくの心配をよそに、とてつもなく素晴らしい音楽をやってくれていました。ありがて〜。その中でも特に、「フロント9番」という曲が素晴らしすぎたので、その素晴らしさを感動しているうちに記述しておこうと思う。

この曲は、アルバム内の1個前の曲「そ友人A」と繋がっている。「友人A」は、おそらくR指定の実体験ベースの曲だ。R指定が高校生のころ片思いしていた地元のギャルが、高校を卒業し3年ほど経った若かりしR指定のバイトしているコンビニに煙草を買いに来る。もちろん向こうはこちらに全く気づいていない。駐車場ではギャルの彼氏が車に乗って待っていて、これから国道沿いのラブホに行くであろうことは明白……切ない〜😭ざっくり言えばこんな感じの曲が「友人A」である。

「フロント9番」は、この「友人A」に出てくるギャル目線のラブソングだ。R指定にとって雲の上の存在だったギャルも、決して幸せではなく、身体目的の彼氏に弄ばれて辛い思いをしていた。ギャルはそんな最低な彼氏を憎みきれないものの、自分が前に進むために別れることを決心するのだった……かわいそう🥺ざっくり言えばこんな感じの曲が「フロント9番」である。

ざっくり言うとどちらの曲も、テーマ自体はとても陳腐だ。ありふれているし、それこそ田舎のギャルが車で流してそうなラブソングに片足を突っ込んでいる。男臭が凄いラップのAメロBメロが続き、サビで「抱きしめて」とか「そばにいて」とか「愛してる」などといった分かりやすい要求を女シンガーが熱唱するアレである。あれはあれでそういうパッケージングをされた商品なので、見事に需要に応えて売れているのだからすごいと思う。芸術的な価値はないと思うけど。

しかしこの曲がそのようなDQNソングとは一線を画して素晴らしいものになっているのは、やはりR指定の圧倒的なテクニックのおかげだろう。R指定お得意の意味を通しつつ言葉遊びをふんだんに盛り込んだリリックは1
つ間違えれば「上手いだけ」で中身のないものになってしまうリスクも孕んでいる(話は変わるが、伏線回収を盛り込んだ漫才やコントに私たちが感じる違和感は、この「上手いだけ」感だと個人的には思っている。あの類のお笑いは、インテレスティングかもしれないがファニーではないのだ)。けれどもそのリスクを取ってまで、頑なに言葉遊びや詩としての精緻さにこだわった結果、ありがちで陳腐な題材のラブソングが現代の「やっぱ好きやねん」へと昇華されたのだろう。

さらに言えば「フロント9番」は、ポップスではなく歌謡曲なのだ。ラジオなどでも度々垣間見える、R指定の歌謡曲に対する深い造詣が、こういう形で創作に活きたのだろう。ポップスはいつの時代もチープなものだが、不思議と「歌謡曲」となると、現代においては昔懐かしな良さがあるような感じがする。このように、今までになかったであろう、ヒップホップ×歌謡曲の組み合わせを成立させたところも、この曲の素晴らしい点の1つとして挙げられるだろう。

ここまでR指定ばかりベタ褒めしたものの、DJ松永が作ったトラックも、この令和の「やっぱ好きやねん」成立に一役買っているところがあると思う。トラック自体は驚くほどシンプルで、基本的にドラムとピアノだけで構成されている。このドラムとピアノという構成は、先程少し触れたDQNソングのパターンをなぞっている。DQNは単細胞なので、音数を抑えたがる性質があるんだと思う。けれどもこの「フロント9番」のトラックは、あえて少しローファイ(音がくぐもっていること)なピアノ音源を利用することで鈍い音色を作り出し、DQNソングとの差別化に成功している。なるほど今まで気が付かなかったが、DQNが使うピアノ音源は大体澄み切った綺麗なグランドピアノである。

↑DQNが綺麗なピアノを使っている例

このような沢山の工夫のおかげで、ありふれた題材やありふれたトラックが大きく化けてCreepy Nutsの曲のなかでも一二を争う名曲になったのだろう。やはりCreepy Nutsはすごい。決してヒップホップにわかが聴く音楽ではないと思う。







いいなと思ったら応援しよう!