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わかおの日記13
母が働いていた会社の人から、アルバイトをしてみないかと声をかけられたので、新宿のオフィスまで話を聞きに行った。顔見知りの社長さん(会うたびに図書カードを1万円分くれる)と、社長さんの弟(ありし日の2ちゃんねるから出てきたような風貌である)、それに妙齢の美人な担当さんが出迎えてくれた。
仕事の内容は、版権切れした著作物をもとに、子ども用のオーディオブックの原稿を書くというものだった。ある程度創造性を発揮する余地が残されているようであったのと、文章の練習になりそうだったので、二つ返事でやりますといった。それに加えて、目が飛び出るほど給料が良かった。ぼくは、この仕事が軌道に乗ったら、即座に個別塾のバイトを辞めようと思った。渡りに船である、なんという幸運。ぼくは、母親の社交性と人脈にこれほど感謝したことはない。
昼前には用件が済んだが、午後に入っている家庭教師までは時間があったのでしばらく新宿をぶらぶらしていた。新宿というのは不思議な街だ。あれほどごちゃごちゃしているのに、何か新宿ですることがあるかと言われれば、特にないのである。歌舞伎町の前で、メイド喫茶の客引きにあった。一瞬心が傾いたが、対人ゲージを午前中で使い果たしてはいけないので、誘惑を断ち切り帰宅した。
原稿を書くために、「フランダースの犬」を読んだ。子どものころ以来に読んだが、ネロがあまりに報われないので悲しくなってしまった。濡れ衣を着せられ村八分にあいながらも、決して純粋さを失わないネロにむしろ恐怖すら感じた。これをどう子どもに分かりやすく書き直そうか、なかなかの難題である。
家庭教師では、教え子が受けた模試の解き直しを一緒にした。予想していたよりも健闘したらしく、ぼくは彼女の成長に感動した。前までは得体のしれない動物を見る目でぼくのことを見ていたが、最近は少しずつ心を開いてくれているようである。非常に嬉しいことだ。恩師の娘さんなので、少しでも彼女の成長に貢献できれば幸いである。
追伸 対人ゲージが0になったので、帰りの電車を乗り過ごしました