隙間
話題が尽きたのか
まだ君が話をしようとしていたのを遮ったか
俺は君の名前を呼んだ。
君はピクッと肩を揺らし
持っていたスマホを床に伏せた。
期待と不安と緊張を孕んで揺れ動く眼から
今の君の心音がきっととても早いことを悟る
君はきっと、こんな空気になるのが怖くて
今日も一生懸命笑顔を作って話を続けていたんだと思う。
ごめん、俺が
もっとムードを作るのが上手ければ
もっとスマートな男であれば。
覚悟を決めた俺はどこか冷静で
それでも恐怖で体の芯が震えている。
身を乗り出して唇をそっと重ねる
スマホを伏せ握り締める手を握る勇気迄はなくて
すぐ側に手を着く。
君の唇は少し冷たくて、化粧品の香りがした。
そっと離して君を見る
浅く息を吐き出した君は
求めているのか、怖いと告げているのか
どちらとも取れる"魅惑"の2文字がピッタリな
視線を俺に向けていた。
もう一度君に口付けを送る。
君はさっきよりも少し顎を上げ
唇に力を入れて俺に押し付ける。
君の唇を何度も食んで
君もその度に答える様に食み返す
俺の舌を唇に軽く当てた
君は唇を薄く開いて受け入れた
徐々に荒くなる呼吸
夢中で絡め合う唾液
初めての君の舌の温度、唾液の粘り
微かな粘着質な音が二人の隙間で反響する。
君の頬を片手で支えたら
指が耳にあたって
君は微かに体を強ばらせる。
君はその瞬間に
俺に縋り付くように
首に両腕を回す。
少しでも隙間を埋めようと
距離なんて要らない、全部くっついてしまいたいと
そんな意思が取れる強さで。
君の腰を、背中を腕で包んで支えて
俺の勢いに君が負けないように助けながら
必死に君を喰う。
唇を離して君の後頭部に手を添えて覆い被さる
君はゆったりと俺の手に体重を委ねる
そっと寝かせてもう一度唇を重ねる
君の手は俺の服をぎゅっと掴む
いつまでも君は僕に縋っている
君の服を脱がせて
俺も乱雑に脱ぎ捨てた
君の身体中に口付けを落として舌を這わせて
時々吸い付いてみる
君は終始胸を上下させ
声を出す訳でもなく深く短く息を吐く
自分がどんな流れで君を抱いたか
正直あんまり覚えてないけど
お互いに身体が覚えているがまま
他の誰かに教わった、他の誰かで覚えた動きで
お互いを満たしていた。
君は時折腰をうねらせて
小さく高い鼻にかかったを漏らしていて
耳に良く残っている
熱い君の中で僕の熱が溶ける
俺の汗が君の汗と混ざる
擦る度、打ち付ける度
君の声が俺の欲望を誘う
俺が果てた後、痛くなかったかだけ問いかけたら
君はうん、と微笑んで俺の唇を奪った。
君がシャワーを浴びている間
2人の抜け殻を集めたり
スマホに溜まった通知を見たりして待った
俺がシャワーを浴びている間に君は服を着て
ベランダでタバコに火をつけて
曇った夜空に紫煙を吐き出していた。
さっきまで1ミリも無かった君との隙間に
大きな窓がある内に
俺は服を着て
君の部屋を出た
おやすみ。
またね