
45 母の外面
両親が高齢者住宅に入居が完了した。
しかし私はまだ安心したわけではなかった。
それは母の事である。
家に帰りたいと言い出したり、場合によっては脱走をするのではないかと危惧していた。
幸いなことに外には勝手に出る事ができない仕組みのようで、あとからそれを知り少しほっとした。
もともとの性格に認知症という物が加わり母の喜怒哀楽はかなり激しくなっていた。
しかし外面が良いせいか、他人がいる前ではひとあたりの良い人であった。
通常は個室の1人部屋で過ごすのだが、一歩部屋から出れば常に人の目がある。
入居者の方やスタッフさん看護師さんが誰かしらがいる。
他人の眼がある所で泣き叫ぶ事はまずないであろう。
食事は自力で動ける人たちは決まった時間に食堂に行ってみんなでいただく。
週に2回併設のデイサービスに行く事に決まった。
これはむしろ良いほうに作用するのではないかと私は思った。
今までコーラスやフォークダンスなどのサークル活動に好んで参加していた母にとって、気の合うお仲間さえできればここでの生活が楽しくなるであろう。
しかしコーラスグループで高齢者施設を訪問した経験があるので、自分がその高齢者側になっているという事が今一つ納得できないでいるというジレンマもあった。
とにかく波風立てずに新しい場所に慣れて欲しいという一心だった。