33 白紙にもどしたい
朝食の支度をしていると父が大事な話があると言った。
ご飯を食べた後でいいからというので朝食後にほうじ茶を入れ二人の前に置いた。
私は自分の定位置である二人から少し離れたカウンターテーブルに自分のほうじ茶を置いた。
両親が毎朝楽しみにしている朝のドラマが始まったが父はテレビを消した。
深刻な話をするとき父は必ずテレビを消す。
嫌な予感がした。
父は一言こう言った。
悪いんだけど今回の施設の件いったん白紙に戻してほしい。
昨夜の一件が引っかかり両親は二人とも眠れずに今回の入居について朝4時から話し合っていたのだという。
大概の事はすぐに忘れる癖に私のたった一言をよくも覚えていたものだ。
そして話し合った結果、結局家を離れたくないというお母さんの気持ちを尊重したいという結論に至ったと言った。
何かの冗談だろうか?私は耳を疑った。
白紙?
ここまで準備したことをすべて撤回しろと言うのか?
私は今回このことにどれほどのエネルギーを注いだのか理解できるならばとてもではないがこんな軽はずみに『白紙』という言葉を言えないはずである。
父の目は遠くを見ていた。
『白紙』という言葉の意味が理解できた私は怒りと悲しみで呼吸が苦しくなった。
めまいがしてくらくらしてきた。