38 契約まであと3日
12月4日が施設入居の契約日である。
あと3日、何事もなく穏やかに過ごせることだけを祈った。
施設に関しての話は一切私からすることはなかった。
両親の3度食事の支度と家の片づけをただひたすらに行う日々であった。
おまけに片付けと言っても母は捨てようとごみ袋に入れ外の物置小屋に入れたものまで物色し元に戻そうとしていたので本当に戦いだった。
白紙に戻したい事件は叔母のおかげでなんとか落ち着いたように見えた。
しかし私は精神のバランスを崩したようで、両親の顔を見るだけで呼吸が苦しくなった。
1人になりたいと2階に籠って片付けをしていても母は無言で部屋のドアを開けお茶やミカンの差し入れを持ってくる。
何度いらないといっても30分もするとまた何かしらを持って2階のドアを開ける。
何かしてあげたいという母心だというのは理解できるが私は昔からこれが大の苦手であった。
必要なものがあれば自分でどうにかするという私と与えたい構いたい母。
私は次第に頑なになり拒絶しそれに対して感情を押し付けてくる母。
これは両親ともに言える事だがドアのノックなどしないのでいきなり入ってこられることもある種の恐怖を感じるようになってきた。
ドアに『はいるな!』と書いて貼ってあるにもかかわらずだ。
こんなことはしたくもないし、字面が強すぎるかとは思ったが口で言ってもだめなので自分の心を守るにもしょうがないと思った。
お願いだからほっといてほしいと何度言っても通じる事はない。
仕方がないので木製の恐ろしく重い衝立(おそらく60キロ以上はあるだろう)をドアの前に置いてみたが、私の留守中に母によって片づけられていた。
160cm45㎏89歳はとんでもない力の持ち主である。
年よりの底力を侮ってはいけない。