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詩/黒板とキッチン

「黒板とキッチン」

順に手にとるミニマムなマストアイテム
雨音が響く朝にそのうちのひとつが鳴り響く

今思えば僕の中の黒板とキッチンは
そこからはじまっていた

雨のせいで現場が延期になった


いつもと同じ珈琲はいつもよりいい香りがした
ゆるやかなタイムラインに目が止まった

ハルノオトさんの告知ツイート
ハルノオトは以前路上で知り合った彼のアートネーム
およそ2時間後に始まる"作り人たちのうた"
会場は黒板とキッチン

"雨のせいで"が"雨のおかげ"を連れてきた

飲んでいた珈琲もそこそこに
雨上がりのバス停に足を向けた

ウォークナビに先を越されたが
なんとかそれらしきビルを見つけた

街駅に近い歩道に面したビルの1階
ローソン右隣りの木枠のガラス戸を開けた
足もとはコンクリートの土間だ

入口左から奥まで続く朱に近い赤の黒板
視界の右は白い壁
突き当たり全面の壁は鮮やかな黄色

黄色い壁に近い中央スペース

アルミむき出しのダクトパイプ
吊るされたステンレスフード
ステンレスカウンターのアイランドキッチン

その景色を例えるとするならば
カラフルな無印良品の景色

チョークの文字は作り人たちのうた
描かれた林檎を持った女性の横顔と植物
椅子に腰掛けるアコースティックギター

空間に適したごくわずかな観客
黄色い壁にアナログの時計
心地のいい呼吸が定刻に脈を打つ

"作り人たちのうた"のはじまり

はじまりはハルノオトさん
タバコの銘柄が散りばめられた歌詞
浮遊感のある音色の世界
僕はそう感じた

ひとりの女性が珈琲を淹れていた
彼女は彼のバンドメンバー

トレイに乗った珈琲は
回覧板のように僕らの手元に

次はハルラモネルさん
悲しい曲にも光があるから音楽には救われる
今でも覚えている彼のコトバ

レトロモダンな映像音楽の世界
僕はそう感じた

聴き入る空気の色を濁すこともなく
遅れてきた観客は僕の前に

小さな女の子を連れた3人家族

座らないままの旦那さんはカメラを構えた
ゆるやかな動きで演者を追っていた

僕は彼にシネマスコープを感じた

さいごはcamisoleさん
キャミソールという名前だが男性なのだ
彼の曲「彼は待つ」を検索して聴いてほしい
メロディラインがキャミソール
僕はそう感じた

ずっと言えなかったこと
ずっと探していたこと
ずっとしたかったこと

そんなことが
空気に溶けて涙がこぼれた

溶けた空気を肌に刻みたくて
3人と握手を交わした

木枠のガラス戸を開け
浸りたい余韻を閉じた

雨のにおいを残したアスファルト
行き交う自動車のライト

街駅に近い歩道に面したビルの1階
ローソン右隣りのフリースペースは

黒板とキッチン


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