詩/板チョコが好きなのかがわからない
「板チョコがすきなのかがわからない」
ブラックを好んでいたはずの珈琲には
気がつけばミルクも砂糖も入れている
かと言ってブラックを欲しがる時もある
まるまる1日お菓子を食べなくても平気なのに
100均で目が合ったチョコレートクッキーは
わずかな時間で食べ尽くしてしまう
甘いものは大丈夫ですか?と訊かれれば
大好きですと答え茶菓子を頂くこともある
酒飲みは甘党が多いとよく耳にしたもの
甘党ではないが酒は好きだ
ビールや発泡酒、日本酒や焼酎
ワインやシャンパン、ウォッカやジンも好きだ
かと言って酒豪ではない
決まって座るいつもの場所で手のひらを見ていた
偶然を装ったAIのサムネイルに
指先が吸い込まれた
御徒町凧(おかちまいかいと)が詩を朗読していた
御徒町凧(おかちまちかいと)が雑談をしていた
御徒町凧がバドワイザーを飲んでいた
御徒町凧が板チョコを食べていた
カカオマス70%、90%、100%の板チョコ
板チョコなんてものを
しばらく口にしていなかったなと思った
決まって座るいつもの場所を立って
決まって行くスーパーへ足を運んだ
カカオマス70%の板チョコを買った
決まって座るいつもの場所の隣りの椅子に座った
外装の裏表(うらおもて)の文字を眺めた
封を開け銀をまとったチョコの板を取り出した
手のひらに乗せゆるい高い高いをしながら
千円札より500円玉のお年玉を喜んだ
あの頃の感覚を思い出した
板チョコのカタチに吸いつくように包まれた銀紙
しばらくはその感触に触れ馴染んだ
そのまま片方の山を持ち一列めの谷で折った
そのままその列を2つに折って口に運んだ
思っていたほど苦くはなかった
左上の天井を見上げながら美味しいと思った
ウイスキーボンボンは苦手だが
ウイスキーが合いそうだと思った
そう思いながら残った感覚の余韻は
板チョコの味ではなく
板チョコのカタチを吸いつくように形どった
銀に包まれた板チョコの感触だけだった
何日かに分けて楽しもうと思ったが
その日のうちに全部食べてしまった
次の日も板チョコを買ったけど
板チョコが好きなのかがわからない