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読書感想『有限会社さんず スーサイド・サポート・サービス 』降田 天

死にきれないあなたのお手伝いをいたします。

秘密裏に運営され、自殺志願者の元へひっそりと現れる自殺補助業者『さんず』
どこからともなく現れる白いカードには、QRコードだけが印刷されておりアクセスした自殺志願者には二人組の協力者が派遣される…。
雇っていたバイトが自殺未遂を起こしたコンビニの雇われ店長、大切な人のために一刻も早く行方不明になりたいと望む女、自分の蝶のコレクションを納得する人物に譲ってから死にたいコレクター、借金返済のための保険金が必要な居酒屋店主、赴任先の同僚から性暴力を受けるようになってしまった女性教師…。
死にたいのに自分では死にきれない人々の元へ、その背中を押すために派遣されるスガとカトウが彼らの心残りを解き明かす。


死にたい人の元に現れる自殺補助業者という、なかなか黒い設定がまず目を引く。
QRコードでアクセスした自殺志願者たちはそこに現れる入力ホームに自分の情報を打ち込み、前払いで多額の報酬を払い自殺に協力してもらうのである。
そもそも『さんず』はあくまで自殺補助業者であり、場所や手段を提供はしてくれるが依頼人を殺してくれるわけではない。
ただ、依頼人が死ねるようにその心残りを出来るだけ取り去ってくれる、というのである。
依頼人にヒアリングをし、最後の一歩を踏み出せるように彼らの心に残るわだかまりを解消するべく奮闘するのである。
ラフな格好で気軽に話しかけてくるスガと、しっかりスーツを着込み鍛えた体で淡々と仕事をこなすカトウの二人組がいろんな依頼者の元でその自殺を手伝っていくのだが…
様々な死にたい理由のある依頼人との対話の中でスガの行動はどちらかというと自殺を留めたそうな気配を含み、カトウは何を考えているのかがよくわからない。
そんな二人と依頼者を、実は『さんず』はずっと見ており全く別の、悪趣味な目的があるのもなかなか面白かった。
話が進むごとにそんな業者で働くことになったスガの事情も明かされ、『さんず』という会社の気持ち悪さも浮き彫りになっていくのも面白い。
様々な依頼者の死ぬべき理由、死にきれない理由を解き明かしながら依頼者の本音が炙り出されていく。
一話一話にきちんと仕掛けもあり、じわじわ明かされるスガの事情にも興味がひかれ、最後まで引き込まれた。
いや『さんず』気持ち悪ぃ~…なんて黒い業者…。
個人的にはもっとしっかりカトウの話も読みたかった感もあるが、全体的には最後まで面白く読ませていただいた。
滅茶苦茶違法業者だが…これは…実際あったら需要ありそうだなと思わせるのが世知辛いね。

こんな本もオススメ。


・伊坂 幸太郎『残り全部バケーション 』

・伊坂 幸太郎『陽気なギャングが地球を回す』シリーズ

・伊坂 幸太郎『バイバイ、ブラックバード』

…裏家業っていうか変な仕事の小説思い出したら僕が読んでるのはほとんど伊坂幸太郎作品だった(笑)
せっかくなのでもう伊坂作品並べとけ~ってなっちゃった

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