読書感想『アーモンド』ソン・ウォンピョン
生まれつき偏桃体が小さく、何かを感じることが出来ないユンジェ。
笑うことも怒ることもないユンジェは、そもそも誰かに共感することもできない。
そんなユンジェを祖母は「かわいい怪物」と呼び、母は感情が分からなくとも周りと同じように反応することを必死に教えていた。
何も感じないユンジェに多大な愛を与えてくれていた祖母と母だったが、彼女たちはユンジェの目の前で暴漢に襲われた。
祖母は帰らぬ人となり母は植物状態になってしまったその時、黙ってその光景を見ていたユンジェもやがて高校生となり、そしてもう一人の怪物ゴニと出会う。
子供の頃に迷子になり寂しく厳しい人生を歩んできたゴニは、激しい感情をもち、その感情を周りにぶつけてしまうがゆえに孤独だった。
感情のないユンジェと、感情を飼いならせないゴニ…二人の出会いがやがて大きく運命を変える。
2020年本屋大賞翻訳小説部門第1位でタイトルだけは気になってた本が文庫になったので読了。
そもそも感情を持ち合わせないユンジェと、孤独なゴニが、お互いに出会ったことで成長する物語である。
物語はユンジェの目線で進むため、そこには感情が伴わないのがとても不思議で、でも同時にそれでも伝わる思いの溢れる一冊だった。
偏桃体が人より小さく、そもそも感情を持ち合わせないユンジェは周りの人たちにはなかなか理解してもらえない。
そのことを嘆く感情もなく、ただただ淡々とすべてを無表情で受け入れるユンジェと、対照的に感情のまま周りを攻撃するゴニ。
激しくすべてを攻撃するゴニは、嫌われ怖がられ周りには受け入れてもらえない。
ゴニも最初は無感情なユンジェに苛立ち、あの手この手でアクションを起こすのだが、ユンジェからは望む反応は返ってこず余計に苛立つことになる。
だが次第に、何の反応も得られない代わりにゴニに反応を期待しないユンジェにゴニは気を許していく。
一般的とは言い難い事情を抱える二人は、親交を深めていくのである。
何も感じないはずのユンジェは、ゴニの怒りや苛立ちの理由がわからず、ただその原因を知ろうと観察するのだが、
感情がないがゆえにフラットな視線でゴニを見つめるユンジェは、いつのころからかゴニの虚勢ではなくゴニの本音を見つめられるようになっていく。
淡々とユンジェの語りで進む物語には確かに豊かな感情表現はない。
なのに、読んでいるとそこにはユンジェがゴニに対して友情を感じているとしか言いようのないモノがあふれているのである。
なかなか衝撃的な事件が起きたり、ゴニがとんでもなく暴れたりと攻撃的で破壊的な事象が起こりながら、淡々とそれをただ見つめる無表情なユンジェが少しずつ少しずつ変化していくのだ。
あぁ、なるほど…話題になるわけだ…。
ユンジェが無感情なため、物語はとても静かに展開し、淡々と進んでいく。
じわじわと染みてくる、温かい一冊でした。
うん、良かった…。
こんな本もオススメ
・小林 由香『まだ人を殺していません 』
・一本木 透『あなたに心はありますか?』
・砥上裕將『 線は、僕を描く』
そこに心があるかどうかって…何を感じてるか感じてないかなんて、もしかしなくても全部幻想じゃないんだろうか…とか思ったり。