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読書感想『架空犯』東野圭吾

俺たちは架空の犯人に振り回されてるんじゃないか…

政治家・藤堂康幸の家が燃えていると通報があった。
即座に消防が駆けつけ、消化活動を行ったが火の勢いが強く消火には3時間以上の時間を要した。
焼け残った家の中から2人の遺体が発見される。
住人の藤堂とその妻・江利子と確認された遺体の死因は、焼死ではなく絞殺だった。
心中に見せかけられた二つの遺体、一体藤堂夫妻に何があったのか…捜査一課の五代務は所轄の山尾と組み捜査を開始するが…
不可解な殺人事件に隠されていたのは華やかに生きてきた藤堂夫妻の知られざる過去だったーーー

東野圭吾氏の『白鳥とコウモリ』シリーズ第二弾となっているが、事件自体に関わりはなく完全に独立した事件ものなので気になった方は全然いきなり読んでいただいて問題ない。
というか、もう、気になったらぜひ読んで。
読もう、間違いがないから。
安定の東野圭吾作品だから。
あぁ、もう相変わらず化け物だな、愛してるわ!!!
(※何度も言いますがワタクシ東野圭吾先生の熱狂的ファン通り越して狂信者なのでちょっと…いやだいぶ…愛強めの感想になってるのでご注意してお読みください)
最近の東野作品の中でもダントツで社会派な内容となるこのシリーズ、今作は殺された政治家とその妻で元女優の過去が大きく関わってくる。
彼らの遺体は心中に見せかけた工作がされているのだが、それ自体が杜撰で、まず本当に心中に見せかけられると思ったのか?が疑問になる。
いったい彼らはなぜ殺されたのか…を探していくうちに、その理由は今ではなく、もっと古い過去に隠されているのではないかということに五代は気づくのである。
そして一緒の行動している山尾が何かを隠していることも示唆され、話は思いもよらぬ方向へ二転三転していくのだ。
東野圭吾作品を読むたびに思うのだが、今現在の複数の事象を同時進行させながらその上で過去やそれぞれの思惑を必要最低限で描くのがなんと上手いんだろう。
あくまで現在進行形の事件を捜査しながらも、その確信はなんと彼らの高校時代にまで遡るのである。
そんなに古い話が、今になって事件の種になるのか?に関してもきちんとした時間の流れと人の思いがあり、だからこそ今こんな事件になってしまったのだ、という納得感も強い。
そしてミステリーな事件になっているが、そのミステリーの成り立ちが誰か1人の思惑でなく、その事件に関わった人々がそれぞれの選択によって意図せずに複雑化していくのもリアリティがあり、真相がわかるにつれて思わず唸ってしまう。
その選択一つ一つはささやかな誰かを守りたい嘘だったり、過去を隠したいための沈黙であったりするのに、それが積み重なることでまるで霧が立ち込めていくように真相が霞んでいくのだ。
明確な意思を持って捜査を撹乱するもの、自分とその家族を守りたいために口を閉ざすもの、故人の尊厳のために言い出せないもの、保身のために言い出せないもの…
あぁぁぁぁあああ、もう、本当に、それぞれの胸の内の葛藤が読んでる人にも容易に想像がつくのがさすがとしか言いようがない。
自分がその立場だったら安易に身動きが取れないことが多く、その結果複雑化していった過程がお見事としか言いようがない…
そして、そんなふうに人が口を閉ざす時に一番強い理由になるのは、誰かへの想いだ。
自分の為ではなく、誰かを守るためになら人はなんでもできてしまうのだということが強く描かれている。
最近の東野圭吾作品は特にその傾向が強く、真相が分かった時にそれぞれの心のうちがこちらの胸に響く。
東野圭吾氏の描く愛は、献身、だ。
誰かが、誰かを思い、そのために自分の人生を差し出してしまえる姿が何処までも切実に描かれるのだ。
あぁぁ…面白かった…
そしてやっぱり大好きなのよ、東野圭吾先生…
事件が、物語が複雑化するのはいつだって人の心が複雑だからなのだ。
実際にも起こりうるかもしれないと思わせるその複雑さに毎度毎度魅了されてしまう。
やべぇわ…まじ好き。凄すぎ。
めちゃくちゃ面白かった…

こんな本もおすすめ

・東野圭吾『白鳥とコウモリ』

・雫井 脩介『望み』

・柚月 裕子『教誨』

事件の全貌がわかるまで胸の痛い本たちですね…。

どうでもいいけど、東野圭吾作品で奈良県が名前だけ出てきて、それだけでうれしくなってしまった奈良県民な僕…。
ちょっとマジ東野圭吾が関わるとテンションの上下が激しい…。

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