見出し画像

読書感想『青嵐の旅人』天童荒太

戦をしないでください

文久2年、江戸幕府が消えようとしている中の伊予松山藩。
代々続くお遍路宿「さぎのや」で姉弟として育てられた孤児のヒスイと救吉。
ヒスイは遍路旅の道中で傷ついた人を保護する役目を、救吉はその治療をする医師の補助をしながら人の命の尊さを学んだ。
ある時ヒスイは山道で腹痛に喘ぐ侍を助ける。
土佐藩から脱藩し、追われているというその侍は、坂本龍馬と名乗り、ヒスイは彼の逃亡を助ける。
そのことがきっかけとなり、姉弟の運命はやがて幕末の動乱に巻き込まれていくこととなる…
幕末の混乱の中で、戦を嫌い人の命を、生活を守りたいと願った愚直な若者たちの歴史長編。


天童荒太先生の新刊だ~!!と、あらすじもなんも確認せずにネットで予約注文して、いざ届いたら歴史もので読み始めるのにだいぶ気合が必要でした…
と、いうのも僕、マジで歴史苦手でして…ははは、まじでこう、歴史を一本の流れとしてとらえられなくて、どの時代のこともよくわからないんですよね…。
ば、幕末モノだと…!?しかも上下…!!???と、えぇこれ読み切れる???と恐る恐る手を出したんですが…無事完走出来て感想にこぎつけられました。
と、いうのも…時代は幕末、内容はガッツリ尊王攘夷とか新選組とか薩長同盟とかなんですが、普段天童先生が現代ものを書かれてるのも関係するのか非常に読みやすい文体と文章構成に加え、主人公のヒスイと救吉、そして藩士の辰之進が戦を嫌い、人の命を守ることに終始真摯だったからかとても読みやすかった。
こう、歴史ものって…どうしてもそこにいる人たちの生き死にが軽いというか…いかに自分たちの正義を押し通すか、って話が多くて…そこの意識も理解できないから余計に苦手な部分があるのが事実で。
どうしてそこまでして自分たちの権威を押し通したいのかとか、いろんな人を犠牲にしてでも天下を取りたいのかとかが、いつも全然理解できないんですよ(苦笑)
ぶっちゃけ今回初めて、幕末の藩士たちが何をしようとしてたのかがちょっとわかった気がする…
これ多分歴史が好きで幕末ガッツリ好きな人には鼻で笑われるだろうけど、マジでずっと結局どういうことなのかがよくわかってなかったんだが初めてなんか流れが見えましたわ…
その上で、どこの藩士だとか、どういう意志の元に動いているかとかを超え、戦がないことを願い、一人でも多くの人を救いたいと奔走するヒスイと救吉に引っ張られ面白く最後まで読み切ることが出来ました。
戦のむなしさを、残酷さを芯から理解し、戦を避けようと思う人が大半なのに政を司る一部の人間の思惑で世の中が動いていく様に、あーもう、ほんと世の中根本的には進歩できてないよなと歯噛みしなら、その流れに染まらないヒスイたちに救われるように読み進められたリ…
例え小説でも、戦で苦しむ人を減らそうとあらゆる立場の人たちが奔走し、それでも戦が始まってしまい犠牲者が出るのがマジでしんどい。
必死に戦を避けようとする人々と、逆に自分たちの想いを通すためなら人を殺せてしまう人々が入り乱れ世の中が動いていく様が、マジでなんか初めてあぁ、こういう事だったのねって腑に落ちたのですよ…
いや、しんどいけど、読み応えのある、そして人が暮らしていくこと生きていくことについて考えさせられる本でした。
うん、舞台は幕末でも、やっぱり天童作品ですわ…人の生死に真っ直ぐ、死を悼むことについてとても深い。
歴史エンタメでありながら、人の死を見送ることへの哲学書のような…そんなん本でした。
うん、読み応えあったわ…。

こんな本もオススメ


・貫井 徳郎『ひとつの祖国』

・今村翔吾『童の神』

・中村 文則『R帝国』

あんまり歴史もの読まないのでこんな本もいいのでは?が戦争物になっちゃいますが…
なんかでもマジで、人間進歩ない…武器変わっただけでずっと愚か…

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集