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読書感想『箱庭クロニクル』坂崎 かおる

身体を拡張するんです。

かつて邦文タイピストだった私の、選んだものとは…(ベルを鳴らして)
禁書運動に勤しむ母親を持つ少女の日々(イン・ザ・ヘブン)
コミュ力が決定的に欠けている新人…でも彼女はクイズだと驚く速さで答えを返す(名前をつけてやる)
水道の検針員をしてる私の楽しみは、とあるチェーン店で豚のスタンプを押してもらう事だったのだが、スタンプカードの廃止が通知され…(あしながおばさん)
流行り病「ゾンビ」…その薬はマツキヨで買えるらしい(あたたかくもやわらかくもないそれ)
水流はいつも左に渦を巻いている…(渦とコリオリ)
時代も主人公たちの抱えるものも違う、6つの話からなる短編集。


新聞の書評で見かけて面白そうだったので購入。
買ってよかった…これは、なんとも奥深い…
短編が6話、それぞれ全く違う話が展開するのだが、どの話にも日常に地続きの嘆きが見え、どうしようもないモヤモヤを抱えながらも日々を過ごしていく姿が描かれている。
まぁ、短編なので何かが解決する感じではなく…主人公たちがどうしようもない鬱屈に囚われている中で、何かを見つけたり何かを失くしたりしながらも日常が続いていく様が描かれている感じである。
個人的にはゾンビの話が好き。
どうしてもコロナ禍の精神的圧迫感が蘇って身につまされる気持ちの中で、主人公の抱えた傷と現在の出会いが思わぬ展開を見せるのが印象的だった。
隔離された親友との紙飛行機でのやり取り、果たされなかった約束、そして訪れた別れと、今の出会い…うん、この話が一番好きかも。
邦文タイピストの話も、読んでいて改行のベルが聞こえてきそうな瑞々しさを感じる。
文章は、なんだろうな…結構含みをもたせるわりに細かく語られない部分があるので時たまちょっと読みにくいかな?と思う部分もあったんだが、それを超えて読後感がよかった。
うん、明確に救いがあるわけではない話が多いわりに、読んだ後の印象はどこか爽やかだった。
面白い本を読んだなぁ~って感じ。
これは今後もチェックしたい作家さんですね…まだ読んでないデビュー作も俄然気になります。

こんな本もオススメ


・小川 洋子『猫を抱いて象と泳ぐ』

・津村記久子『うそコンシェルジュ』

・千早 茜『眠れない夜のために』

少しでも気になったらついつい軽率に本を買っちゃうんだが、おかげでいろんな世界を見れるなってつくづく思う
まぁ、紙の上の文字だけで何を知った気になってるんだ?って言われたら言い返せないですが…

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