読書感想『さよなら校長先生』瀧羽 麻子
第三小学校の校長として、長く地域に尽力した高村正子さんが亡くなった
長年教職にあり、教育者として慕われていた高村先生を悼んだ後輩教師たちにより、『高村正子先生を偲ぶ会』が開かれることとなった。
生前彼女と関わった人々から思い出の品を持ち寄ってもらい展示し、高村先生からもらった言葉や教えを振り返る…。
教師として慕われた高村先生…その素晴らしさと共に先生ではない高村正子の姿が浮かび上がる連作短編集。
始まりは孫娘から聞いた訃報から、祖父であり高村正子先生が受け持った一人の生徒の想いで話から幕を開ける。
当時、複雑な家庭環境に身を置きながらもそれを辛いといえなかった少年が、高村先生によって救われた話である。
そこから、てっきり高村先生と出会ったいろんな生徒や教師の話が展開されるのかと思いきや、つづくのはまさかの推し活仲間の話である。
教職を退いた高村先生が、実はアイドルに夢中だった話に続き、素晴らしい先生だった高村正子と実はあまりうまくいかなかった娘の話が続いていく。
先生としての彼女の姿とは別にある、高村正子という一人の女性が描かれているのが印象深い。
生徒から慕われ、教師からは尊敬され、本人も教職を天職だと邁進していた高村正子。
でもそれゆえに、母親が素晴らしい教育者であるからこそすべてを見透かされているようで落ち着かなかった娘や、仕事にまい進していたがためにいざ仕事がなくなるとやりたいことがわからなくなってしまった高村先生本人の話や、後輩の教師が結婚を機に退職する時に感じた愚痴など、「素晴らしい高村正子先生」としては周りに見せられなかった素顔が描かれていく。
高村正子本人はすでに亡くなっており、あくまでもかかわったいろんな人が思い出話として彼女を振り返っているのが少し切なく、同時に優しく懐の深い彼女の凄さと潔さがとても魅力的な一冊だった。
こんな先生に出会いたかった…と、生徒目線で思うと同時に、娘の息苦しさや高村正子本人が自分を律し続けなければならなかったであろう重圧も伺い知れる。
関わった多くの人に慕われ、その期待に応えることが当たり前にできてしまった高村正子という素晴らしい女性の、それでもずべ手がうまくいっていたわけではないという人生の難しさが伺い知れるような一冊だった。
なんか、自分は全然関係ないのに素晴らしい教えをもらえたような気分になってしまった。
…残念ながら自分にはこんな恩師一人もいなかったなぁ…いや実はいい先生はいたのに僕がいい生徒じゃなかったのか…
こんな本もオススメ
・天童荒太『悼む人』
・有川 浩『旅猫リポート』
・木皿泉『さざなみのよる』
人が死ぬ、ってやっぱり考えさせられることが多い。
永遠の別れとの向き合い方について小説のおかげで考える機会に多く恵まれてる気がする。