読書感想『シルバー保育園サンバ!』中澤 日菜子
警備会社を定年退職後、妻が離婚を申し出、一人娘と共に出て行ってしまった銀治。
孤独で怠惰な日々を送る中、暇を持て余してシルバー人材派遣センターに登録した銀治は、ひょんなことで保育園の草むしりを請け負うことに…。
人と接すること…特に女子供が苦手な強面の銀治は、断り切れず訪れた保育園で案の定不審者扱いをされてしまう。
次々と起こるハプニングに巻き込まれながら、渋々ながら人と接していた銀治だったが次第に周りと打ち解け始め…
人生はいくつからでもやり直せる…定年親父の奮闘と共におくるハートフル小説。
主人公の銀治は所謂昭和世代の仕事人間で、家のことはすべて妻・律子に任せ稼ぎさえあればそれでいいと思って過ごしてきたのである。
ところがもちろんそんなものが良いわけではなく、数年前に妻と娘に見捨てられて一人になったのである。
松平健さんを当て書きしたという…強面で不愛想で口下手な銀治は一人ただ暇つぶしにシルバー人材センターで働いていたのである。
その仕事依頼の一つとして訪れた保育園の草むしりが、彼の意識を大きく変えていくのである。
自分の家族にすら碌に向き合ってこなかった銀治は、やんちゃな子供たちや子供のために必死な母親たち、そしてそのどちらにも真摯に対応する保育士たちと出会い、接していくうちに自分がいかに無責任で家庭から目を背けていたかを痛感するのである。
銀治の凄いところは70年近い人生で目をそらし続けた「家庭」や「生活」という「仕事」以外の人生の営みをきちんと見直していくところである。
自分がいかに家族に対して不誠実だったかを痛感し、そして、今さらながらなんとかそのことを謝罪して関係性の修復をはかりたいと奮闘するのである。
いや~なかなかね、現実ではそういう柔軟さを持ち合わせる人は多くないんだよな~とは思いつつ、子供たちを心配し保育士たちを気遣い、自分にできることを出来ることから真摯に向き合っていく銀治は思わず応援したくなる。
もちろん問題はそんなに簡単には解決せず、何なら銀治にはどうにもできない事態も起こり、銀治が変わっただけではすべてが改善していくわけでは決してない。
それでも自分を取り巻くあらゆるものに、真摯に向き合う事の大切さに溢れた一冊だった。
いいことも悪いことも、うまくいかないこともいっぱいあるけど、真摯に生きることは自分お気持ちひとつでできるんだなって考えさせられました。
コメディタッチで読みやすく、でも結構深い一冊。
こんな本もオススメ
・『終わった人』内館牧子
・小野寺史宜『日比野豆腐店』
・瀬尾 まいこ『そして、バトンは渡された』
家族だからこそ必要な気遣いとか遠慮とか、同時に踏み越えて欲しい一線とか…なかなか多種多様で難しいなって思いますね。