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読書感想『代替伴侶』白石一文
まるでパラレルワールドだ…
人口が爆発的に増え、子供を一人しか持つことが許されなくなった世界…その世界では不倫で子供を身ごもった場合、正しい親子関係での家族を構築するために強制的に離婚が可能になっていた。
一方的に相手に不倫された上に子供が出来たと伴侶に捨てられた場合、精神的に打撃を被った人へ、最大10年間『代替伴侶』の貸与が許可される。
『代替伴侶』とは、かつての伴侶を見た目・内面・感情…すべてを完全にコピーしたアンドロイドであり、ただし自分が代替伴侶であることを認識できないようにプログラミングされた存在だ。
それは『ありえた夫婦の形』を提示すると同時に、愛とは何かを本質的に炙り出す存在である。
不妊で悩んでいた隼人とゆとり…子供ができにくい理由は双方にあり、協力して何とか子供を授かりたいと試行錯誤を繰り返していた。
しかし、ゆとりは別の男性との子供を身ごもり、隼人のもとを去ってしまう。
失意の隼人は『代替伴侶』を申請し、ゆとりのコピー(通称:ツイン)との生活を始めた。
ところが、今度は隼人が他の女性との間に子供を授かり、ゆとりのツインの元を去ることになる。
自分がツインだとは知らないゆとりは、失意の中、隼人の『代替伴侶』を申請する…
別れてしまった隼人とゆとり…だがツインの隼人とゆとりはありえたかもしれない二人の未来を現実に生きていて…『愛』について考える近未来文学。
夫婦としてお互いを深く愛していていたはずの隼人とゆとり。
だが子供を望んだことで、ゆとりは隼人を捨てる。
そして隼人はゆとりのツインと暮らし始めたにもかかわらず、別の女性との間に子供を授かって…って、ぶっちゃけ最初のくだりは、おいおいおいおいおい、お前ら何が愛やねん!?って突っ込まずにはいられない…
え、えぇ??待って待って、代替頼むくらいゆとりが必要だとか言いながら、他所で子供作ってきて代替を捨てるって一体どういうこと???隼人さん????
で、捨てられたツインのゆとりはゆとりで、隼人のツインを申請するくらいショックなの…?なのに、もともとはあなたが外で子供作ったのがそもそもの始まりじゃ…と、マジ最初の流れはえぇぇっぇぇぇぇぇぇええなんて自分勝手な二人!?!?感がある意味衝撃
愛?愛とは…??となんていうかなんて自分勝手な思考回路の二人なんだろう…と半ばあきれながら読み進めたわけですが…
結果、ツインのゆとりの申請は通り、隼人のツインが無事貸与されるのだが…ここでややこしいのは、ツインのゆとりは自分がツインとは認識できていないが隼人がツインだとは知っている、そしてツインの隼人は同じように自分はツインだとは認識していないが、ゆとりの代替伴侶を申請して彼女がツインであると知っている隼人のすべてをコピーされたツインだという点である。
つまり、代替伴侶同士の夫婦となってしまったツインのゆとりと隼人は、自分自身がツインだとはわかっていないが相手が10年後には機能を停止する代替であることを認識している、というなんとも奇妙な状況なのである。
お互いにお互いを代替品であると認識しながら、彼らは深く愛しあい、相手のために出来ることを模索し、10年後には確実にいなくなる相手がいなくなった後の人生に思いをはせるのだ。
そしてツイン同士の夫婦の元になった隼人とゆとりは、ゆとりのツインが隼人のツインを申請したことをきっかけに、自分の家族をそれぞれ持ちながら個人として再び向き合うようになるのである。
子供を授かったことをきっかけに夫婦として破綻してしまった隼人とゆとりだったが、もし子供を授からなかったら続いていただろう二人の生活を、現在進行形でツインが営んでいるという奇妙な状況を見守りながら、どうして自分たちがそうはあれなかったのかを考えるのである。
いや、うん、突っ込みたいことは複数…そもそも子供一人って厳密に女の人はわかりやすいけど男はどうよ?とか、強制堕胎とか強制離婚とか色々ちょっと無茶苦茶だな感は拭えないし、冒頭でも言ったが、そもそもそんなにお互い大事なら外で子供作るなよ!?ってめっちゃくちゃ思うんですが…
うぅ~ん、悔しいかな読後感そんなに悪くないんだよね…いや、これがなかなか面白かった…。
夫婦としてお互いを愛する…愛するがゆえに子供が欲しい、だが、子供という存在を介することでお互いの関係性にズレが生じるって視点はなかなか面白い。
お互いだけを愛し、お互いのことだけを深く慈しんでいるだけならば二人はうまくいっていたのに、そこに子供という別の要素を加えようとしたとたんに、それがうまくいかないことで夫婦自体が破綻してしまい、最終的には夫婦の幸せの象徴だった子供の存在が一人歩きし、望むものが「子供」というものに置き換わってしまう様は何とも確執をついている気がする。
自分たちの幸せのために子供を望んだはずが、いつの間にか「子供」を授かることが幸せなのだと置き換わり、挙句の果てに別れるって…いや、興味深いわ。
そしてそれぞれに別の相手と夫婦になり子供を育てる隼人とゆとりだが、ツイン同士が仲睦まじく暮らす様子は、完全に二人からすればありえた未来の具現化であり、今そこにあるパラレルワールドなのである…。
いや、うん、あんたら二人がもともと…今だってそれはそもそもあんたらが悪いんじゃ…と、まぁ自分勝手な隼人とゆかりになんじゃこいつら?感はぶっちゃけ最初から最後まで拭えないのは事実なのだが(笑)、そもそも夫婦とは?お互いを愛するとは?は考えさせられる一冊である。
やっぱり自分勝手すぎるでしょうあんたら!?感は終始拭えないんだが、これがなかなか読みごたえもあり、面白かった。
いや、でもやっぱり君らどっちも自分勝手なお騒がせカップルだと思うけどね…うん。
なんか色々腑に落ちないのに、ちょっとぐっときたりもする不思議な一冊。
面白かった…面白かったんだけど…やっぱり君らどうかと思うわ(笑)
こんな本もオススメ
・東野圭吾『容疑者Xの献身』
・実石沙枝子『きみが忘れた世界のおわり』
・河野裕『愛されてんだと自覚しな』
深い深い愛の話だな、とは思うので…人生が狂うくらいの愛が描かれた本をおススメ。
全部全然テイストは違うが、間違いなくそこには普遍的な愛があると思うやつ。