読書感想『クスノキの女神』東野 圭吾

不思議なクスノキを祀る月郷神社、そこでクスノキの番人を務める玲斗。
ある日玲斗が神社の掃除をしていると、神社に詩集を置かせて欲しいと女子高生の佑紀奈とその弟・妹が頼んできた。
月郷神社には売店がないため断ろうとした玲斗だったが、彼女たちの切実な表情に負けうけおうことに。
そんな折、叔母・千舟の付き添いで訪れた認知症カフェで玲斗は眠るとその日の記憶を失くしてしまう少年・元哉と出会う。
類まれない絵の才能を持つ元哉は、月郷神社にある詩集にインスピレーションを受け…
人の想いを伝えることのできる不思議なクスノキと、その番人・玲斗が繋ぐ人の出会いと想いの物語。


『クスノキの番人』の続編なので、クスノキの詳しい話や玲斗の身の上話などが気になる方はぜひぜひこちらから読んで欲しい。

とはいいつつ、いきなりこちらを読んでも多分全然問題なく楽しめるので、説明の差し込み方や情報の補足の仕方がさすがの東野圭吾先生の作品である。
文章の取捨選択が抜群に上手いんだよ…このお方は…

(※注※ 僕は東野圭吾先生の狂信的なファンなので
     推しを語るオタクだと思ってご覧ください)

で、新刊。いや、雑誌掲載時にも読んでたんだが…
今作は、まぁ、事件も出てくるものの、ミステリー作品ではなくクスノキをめぐる人々に起こる奇跡の話である。
人の想いを受け取り、つながりの深い血縁者に伝える力を持つ不思議なクスノキが紡ぐ、家族の絆と再生、そして今をどう生きるのかが描かれている。
もうね、最近よく思うんだが、東野圭吾先生はいつからこんな優しい世界を紡がれるようになったのか…!!!
『さまよう刃」とか『殺人の門』とか『悪意』とかね、どちらかといえば人の負の感情とかその残酷さを掘り下げて書かれることの多い作家先生だったのが、ここ10年くらいの作品でどんどん悩む人や傷ついた人に寄り添う物語を紡がれることが多くなられたなぁと改めて思ったり。
奇跡を起こせるクスノキ、その番人を務める玲斗は全力で誰かの力になれる善良な人でもありながらも、過去には事件を起こしたような危うさも持つ、とてもありふれた人物である。
そうなのよ、何がいいって、東野圭吾作品で出てくる人たちは、善人でもあり、悪人でもある、身近で出会ったことのあるような人たちなのだ。
特に今作はまだ高校生の佑紀奈と、中学生ながら記憶障害を患う元哉のこれからを生きていくための苦悩と、それを全力で支えたいと奮闘し一緒に悩む大人たちの物語なのだ。
東野圭吾作品って随所随所に絵本が出てきてて、絵本ってたいてい大人が子供に向けて何かを伝えたいアイテムとして描かれることが大半で、今まではそういう役割として登場してたと記憶している。
だが今回は、佑紀奈と元哉が自分たちのために物語を紡ぎだす。
自分たちで考え、悩み、今を生きるための答えを必死に探す子供たちと、どうにかして彼らが健やかであってほしいと願う大人たち。
そして、子供たちの対比として描かれているのは、年齢を重ね認知症を患い自分を失くしていく玲斗の伯母・千舟だ。
昨日出来ていたことが出来なくなり、会話の内容さえ忘れてしまう自分にどんどん自信を無くしてしまう千舟と、そんな千舟に寄り添う玲斗も子供たちの出した答えに救いを見出すのだ。
いや、マジで…いつからこんなに優しい文章を紡がれるようになられたのか…!!!
良かった…めちゃくちゃ、よかった…。
凄く素敵な一冊なので文庫待たずに楽しんでいただきたい…!!!
後どうでもいいけど東野圭吾先生結構スターウォーズ詳しいのね、嬉しくなっちゃった(本当にどうでもいい…)

・小川糸『ライオンのおやつ』

・小川 洋子『博士の愛した数式』

・荻原 浩 『明日の記憶』

記憶が蓄積されないことを未来がないとしないのはそばにいて一緒に歩む人がいてこそなのだなぁと思わされる本の数々。

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