
読書感想『ぼくのメジャースプーン』辻村 深月
でも、ふみちゃんはいない。
ぼくらの学校を襲ったのは、現役の医学部学生が面白半分でうさぎ小屋を襲撃したというどうしようもなく陰惨な事件だった。
裁縫バサミで切り刻まれたうさぎを発見したぼくの幼馴染のふみちゃんは、ショックのあまり心を閉ざしてしまう。
彼女のために、犯人に対してぼくには一つだけできることがあった。
たった一度のチャンスを生かす…これはぼくの戦いだ。
辻村ワールドを堪能するためには避けては通れない、でも滅茶苦茶辛い一冊である。
続きも結末も気になるし、読んでて涙は出てくるし、最後の最後までずっと気が抜けないとんでもない一冊なんだが、めちゃくちゃ面白…いや、こういう本って面白いって表現していいのか本当に悩む…。
主人公は小学4年生の少年、ぼく。
ぼくには、いつでも真面目で、頑張り屋で、物知りで、負けず嫌いで、自慢の友達である幼馴染の女の子・ふみちゃんがいる。
ふみちゃんは動物が好きで、特にうさぎがすきで、学校の飼育小屋のうさぎを誰よりも可愛がっていたのである。
そこに、どうしようもない悪意が襲撃するのだ。
…もうねぇぇぇぇ…うさぎが襲撃される詳細はこれが小説だってわかってても滅茶苦茶辛くて、痛くて、腹立たしくて、やるせない。
これ、…この本を読まれる方で動物が虐げられるシーンが苦手な方はマジで注意をした方がいい…強烈なのよ…。
で、それをうさぎの世話をしてた女の子が見つけて…ってあのシーン、何度読んでも吐き気しかない…。
辻村深月先生…よくこんな残酷な…やだ、思い出しただけで気持ち悪いレベル…泣きそうだ。
そしてそれをした犯人が…これまたもうほんとどうしようもないクズで…
そのクズに…ぼく、が自分の持つ特殊能力で戦いを挑む…という一冊なんですよ。
物語の大半は,ぼくの持つ特殊能力の説明と、問題点を大学教授であり同じ能力者である秋山一樹先生とのその能力の使い方へレクチャーである。
…んでだな、この作品で読者は気づき始めるんですよね…あ、あれ?もしかして世界が繋がってる???と…
刊行順に読むと、二作前の「子供たちは夜と遊ぶ」の秋山先生の登場にえぇ!?と度肝を抜かれ、名前の出ない人々でもおいおい、もしかしなくても君たちはあの時の!?と一気に解像度が上がるのである。
実は僕、一回目に読んだときは順番を知らず、ページ数的に読みやすそうなとこから読んだんで、「子供たち~」未読だったんですよ…
時系列としては『子供~』の二年後が『ぼくの~』…もっと言うならさらに6年後が『名前探しの放課後』になってるんですよね…。
で、だ、…ここで凄いのが、確かに読んでいたら解像度が上がるし、あぁここってこういう事だったの!?って驚きがあるんだけど、読んでなくても全然ちゃんと面白いから辻村深月先生惚れる…。
…そうなんですよ、僕なかなか我儘な読者で…読んでなくても楽しめる作品リンク大好きなくせに、それが過度だと一気に冷めちゃうんですよね…。
えぇ…おかげでついていけないわ…って読まなくなった作家先生がちらほら…
でも辻村先生のこのリンクは絶妙で…知ってたらより面白いけど知らなくても面白いから…大好き…
ってそれはとりあえずおいておいて…メジャースプーンの話を…。
ぼく、は事件以来すっかり心を閉ざしたふみちゃんのために自分の能力で犯人に思い知らせたい。
お前はこんなにひどいことをしたんだぞ、お前のせいでこんなに傷ついた人がいるんだぞ、って。
でも大人な秋山先生は彼に諭すんですよ。
ああいうクズは僕らとそもそも感覚が違うから、思い知らせることは難しい、と…。
ぼく、のもつ当たり前の優しさや後悔と、全く別次元の思考回路で動いてるどうしようもない犯人…
自分以外大事なものがなくて周りを傷つけることに躊躇がないようなクズに一矢報いるために、まだ小学4年生のぼくが必死に考えて考えて、犯人に会うのである。
もうほんと、終始痛くて辛い本です。
でも同時に、ぼく、がずっと心を閉ざしたふみちゃんを何とか取り戻したいという想いに溢れていて、純粋な一冊でもあります。
読んでてずっとつらい…ぼく、が必死になればなるほど心苦しくて、どこまでも理解できない犯人がめちゃくちゃ胸糞悪くて、でも、同時にとんでもない名作なんですよ…
物語はずっとぼくの目線で、僕の思いで進んでいく…
まだまだ子供の思考回路で、大好きなふみちゃんのために、自分のできることをするために必死に立ち向かうぼくが、ほんとずっと痛々しくて、誰かを純粋に想う事の尊さに溢れた一冊です。
いや、まじで気を付けて読まないととんでもないダメージを受ける本なんですが…これはほんととんでもない名作…。
ぼく、の純粋でひたむきな戦いを見守ってください。
こんな本もオススメ
・辻村深月『子供たちは夜と遊ぶ』
・辻村深月『名前探しの放課後』
・天祢涼『希望が死んだ夜に』
刊行準的には次は『スロウハイツの神様』だってわかりつつ、個人的に『スロウハイツ』好きすぎて一番読み返してるので、今回はあえて飛ばして『名前探しの放課後』を読もうと思います!!
んで短編集まで読むんだ…←辻村深月初期作品は記憶がはっきりしてる間にまとめて読みたい
…おかげで新刊の積読がめっちゃたまってきてちょっと焦ってますが…(笑)