
読書感想『嵐をこえて会いに行く』彩瀬 まる
会えるときに会っておかなければ後悔する。
コロナ禍を超えた2024年の函館で一人暮らす高木志津夫は、長い付き合いである女友達・鳴海遥に会おうと思い立つ。
土方歳三が好きだという鳴海はコロナ前には一年に一度函館を訪れていたが、身体を壊したこともあり足が遠のいていた。
だったら自分から青森へ行けばいいと、高木は新幹線に乗り込んだ。
40年の付き合いになる異性の友人である鳴海と自分について、高木は振り返って考える(ひとひらの羽)
東北・北海道新幹線の沿線を舞台に、コロナ禍を超えた今、人と人のつながりについて真摯に向き合う短編集。
東北を舞台に人と人とのつながりについて考えさせられる短編集だ。
舞台はまさに今、コロナによって分断されていた遠方の結びつきが復活しつつある現在である。
強制的に分断されて間遠になった人々の、だからこそ今面と向かって会う事の大切さをが随所にちりばめられている。
その中には分断されている間に二度と会うことが叶わなくなった後悔や、コロナを理由に疎んじてしまった物事への悔恨も含まれている。
個人的には、ずっと憧れていた作家の訃報を聞いてスランプに陥った小説家の藍井円香がかつての編集を訪ねて盛岡へ行く『あたたかな地層」がとても印象的でした。
作者が亡くなったことで未完に終わってしまった本に思いを馳せ、その人が紡ごうとしたものが永遠に失くなってしまったことを惜しみ、道半ばで逝った作者本人の無念さまでも感じ取れる。
大きな指針を喪ったことで迷子になってしまった藍井円香が再び歩き出す一編である。
それぞれの話は独立しているが、一冊の本としてはずっと大切な人を思い浮かべ、きちんと会っておこうという明確な意思を感じる。
そしてそのために一歩踏み出していく姿に、あぁ僕も○○に会いたいな、とそれぞれが誰かしらの顔を思い浮かべてしまう一冊じゃないだろうか。
普段のいる場所を少し離れ、大事な人に会いたくなる…そんな一冊でした。
こんな本もオススメ
・彩瀬 まる『桜の下で待っている』
・一穂ミチ 『光のとこにいてね』
・瀧羽 麻子『さよなら校長先生』
いつも一緒にいるわけではないけども大事な人っていて、相手が笑って暮らしてるならそれでいいとか思うのは都合のいい言い訳で本当は一緒に笑いたいんだよなぁ。