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読書感想『凍りのくじら』辻村 深月
私は、Sukosi・Fuzai(少し・不在)
高校2年、芦沢理帆子は誰とでも仲良くしながらも、すべてのものをどこか馬鹿にしていた。誰と何をしていても、心の底からは楽しいわけではない彼女はみんなに密かにあだ名をつけている。
5年前に失踪した写真家だった父親は、藤子・F・不二雄を「先生」と呼び、その作品のすばらしさを理帆子に教えてくれた。
そんな父親よりはるかに現実主義な母・汐子は癌での余命宣告を受けており、そのリミットが刻一刻と近づいている。
ある夏の日、理帆子は写真のモデルになって欲しいと高校の先輩・別所あきらに声を掛けられる。
戸惑いながらも、どこまでもフラットなあきらと話してるうちに今まで口に出来なかった理帆子の本音がこぼれ始める。
同じころ、理帆子の元カレ・若尾の様子が徐々におかしくなり始め…
辻村深月初期作品の傑作といえば、この作品を上げる人が多いんじゃないんだろうか…。
富士子先生がSFを「少し・不思議」と表現したことをモチーフに、最初から最後までドラえもんへの愛に溢れた一作である。
読み始めた最初は、主人公である理帆子の斜に構えて友達だけじゃなく母親さえも見下したような態度が受け入れがたい人もいるんじゃないかと思う。
一緒にいてる人を馬鹿にし、憐れむ理帆子…なのだが、話が進めば進むほどそれは彼女の精一杯の自衛で虚勢であることが伺い知れていく。
そりゃそうだ…まだ高校二年生で、父親は失踪してどうなったかがわからず、母親は死ぬのを待つしかない状態で平気なわけがない…
別所あきらとの会話や元カレ若尾の異変、友人たちの助言や母親の容態の変化を通じて、じわじわ染み出てくる理帆子の本心を追いながら、気づけば自分の心のとんでもなく深いところを刺激されている、そんな一冊なのである。
随所随所でドラえもんで出てきた道具が取り上げられ、その道具をどう使うべきだったのかを考えながら今の自分と照らし合わせながら話は進む。
ミステリーでも恋愛でもない、それこそ少し・不穏で、不安で、不思議な物語…。
久しぶりに読んだらやっぱりべしょべしょに泣いてしまった…
いやもう、今さらなんですけどね…今さらなんだけど、ほんとなんでこんなに的確に心情表現できるんだろうか…。
理帆子好きになれないな~とか思ってたはずが気が付けば、好きとか嫌いとかそういう次元じゃなくてですね…その感情が全部ぶっ刺さることぶっ刺さること…
そうなってくるとどんどん彼女がどんなに心細くて不安で一人で耐えていたのかが考えるまでもなく伝わってきて。
その中で彼女が手を伸ばすことも、声を上げることもできなかったことが痛いほどわかって、その上で彼女が自分の本音を受け入れて、自ら動き始めたら、もう駄目よね、泣く…これはもう、泣く。
というか、今これ書いてても泣きそう
マジで、なんなんだろう、気づけば心の内側から響いてくるんだよなぁ…
いやぁ…凄いわ。
やっぱりすごいわ、辻村深月先生…と、改めて心酔している最近である。
…もう、ほんと、改めてよかった…めっちゃよかった…
そして、めちゃくちゃドラえもんが読みたい(笑)
残念ながら我が家には大長編ドラえもんしかないんだよ!!!(むしろなんでそっちだけ持ってるんだろう…)
‥‥‥‥買うか。
こんな本もオススメ
・辻村深月『映画 ドラえもん のび太の月面探査記』
・道尾秀介『カラスの親指 by rule of CROW’s thumb 』
・東野 圭吾『容疑者Xの献身』
辻村先生がのちに書いたドラえもんがめっちゃドラえもんで大好きです。