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読書感想『一ノ瀬ユウナが浮いている』乙一

ユウナが好きだった線香花火でないと、ダメなんだ…

幼馴染みの一ノ瀬ユウナが、17歳で死んだ。
バイトの帰りに大雨に見舞われたユウナは、水難事故にあい死んでしまった。
子供のころから一番近くで、いつからか恋心を抱きながらそばにいた大地はそのことを伝えることもできなかった…。
ユウナのいなくなった現実を何とか受け止めようと、彼女との思い出に区切りをつけるために二人でするはずだった線香花火に一人で火をつけた大地。
すると、ユウナが目の前に浮かびあがって…。
ユウナの好きだった線香花火、それに火をつけた時にだけ彼女が姿を現すことに気づいた大地は、彼女と言葉を交わすために何度も線香花火に火をともす。
ところがその線香花火はすでに製造中止になっており、残りの本数は限られていた。


まぁ、割とよくある青春もの…なんですが、乙一先生の文章の上手さが魅力的な一冊ですね。
既に死んでしまったユウナだが、線香花火により浮かび上がる彼女には全く悲壮感はなく、生前と変わらない明るさを振りまく。
ユウナが死んだことを分かりながら、自分がおかしくなったのかもしれないと疑いながらも大地はユウナと会う事がやめられない。
なんとか同じ線香花火を買い集め、ユウナと会える回数を増やすことに躍起になりながらも、関係性は幼馴染のままなのだ。
告白さえできなかったと後悔しながらも、いざ目の前に現れた幼馴染にやっぱり気持ちを伝えられない大地。
彼はただただ、死んでしまったユウナの心残りを少しでも減らそうと彼女のために行動するのである。
えぇ、えぇ…あまずっぺぇ~…あまずっぺぇよ!!アオハルだな!!!!アオハルなんだな!!!!って感じの一冊です。
まぁね、よくある黄泉がえりモノで、アイテムが線香花火ってところが情緒ある感じですが…そこまで奇をてらった作品ではない。
ずっと同じ時間を生きてきた二人が、本当はもう別れなくてはいけないことも自覚しながらもそれを先延ばしにしていくお話です。
せつね~あまずっぺ~…いや、うん、これは高校生とか…若いうちに読んだ方が胸に刺さる一冊かな?
最終的には二人に訪れる本当の別れと、死が二人を分かつことがどういうことなのかがじわじわ効いてくる一冊です。
乙一先生はやっぱり文章がうまいなぁ~と思う一冊でした。

こんな本もオススメ


・天祢涼『Ghost ぼくの初恋が消えるまで』

・逸木 裕『空想クラブ』

・額賀 澪『カナコと加奈子のやり直し』

やり直しはできないってわかっているけれど、どしても、もう一度を願ってしまうんだよな。

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