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読書感想『名前探しの放課後』辻村 深月

探すんでしょ?自殺者

依田いつかが最初に感じた違和感は撤去されたはずの看板だった。
自分が唐突に三カ月前に戻っていることに気づいたいつかは、これから起こるクラスメートが自殺したという記憶を抱えていた。
何故そんなことが起こったのかわからず困惑しながらも、三か月後に起こる自殺を止めるべくいつかは動き始める。
いつかはまず、中学時代にタイムトラベルについて自由研究をしていた坂崎あすなに相談する。
三か月後の自殺を止めるために、いつかたちが奔走する青春小説。


見目が良く彼女が途絶えたことのない、少し軽薄な依田いつかが三か月後に起こったクラスメートの自殺を止めるために出来ることを全部やる青春小説である。
いやああああああ…この作品はね、初期辻村ワールドの総決算な一冊なので、辻村深月作品の一作目には向かない部分もあるんだが、青春小説としてとてもいい。
そうなのよ…『ぼくのメジャースプーン』を読んでないとエピローグが全く意味わからんのでそこはちょっと問題だとは思うんだが…でも、良い。
エピローグの意味を分かるために読まなきゃ!?って思わせるだけの色々が詰まった一冊だと思う。
三か月後から一人戻ってきたと認識してるいつかは、その自殺を止めるために仲間を集める。
今まで話したことはないが中学が一緒で、その性質は知っていた同級生の坂崎あすかを筆頭に、
親友であり誰とでも仲良くできる長尾秀人、その彼女である椿、秀人の友人でありいずれ生徒会長になりたい切れ者の天木を巻き込み、彼らはいつかが覚えていないという自殺者探しを始める。
そしてひょんなことで隣のクラスの河野基が架空の事件記事と遺書を書いてることを知り、彼が自殺者の第一候補だとして接触を図るのである。
ちなみに、僕はこの作品も好きで何度か読んでるので…自殺者が誰で、彼らの行動がどういう結果を産むのかを知っている。
知ってるんだけどさ…本当に起こるかさえわからない自殺を回避するために彼らのとる遠回りすぎる行動のあれこれがもう、すべて青春…青春んんん!!!!!!としか言いようがないのである。
依田いつかが行動を起こすことで、いろんな物事が変わっていくのだが、一番変わって行くのはいつか本人の心のありようなのである。
実は中学時代に苦い経験をしたいつかは、いまだにその物事にしっかり向き合えておらず、だからこそ余計に軽薄でその場限りのような学生生活に身を置いていた。
ところが、自殺を回避させるために彼らがとった行動は、自殺をその場で止めることではなく、そもそも自殺を選ばないように精神を鍛えなおし必死で生きようと出来るように支えることなのである。
人生にはイベントが必要だ、と課題を用意し、それをクリアする中で成功体験や自分以外の周りの人々との繋がりを本人へ意識させるという…何とも迂遠な計画なのである。
そもそも本当に自殺は起こるのか?という疑問はありつつ、それでももし依田いつかの言うとおりに自殺が起こったときに絶対に自分たちは後悔する、というなんとも正常で真っ当な感覚で彼らは全力で三カ月を過ごすのである。
この作品は、一回目はね、もう最後の怒涛の展開にひたすら飲み込まれた上でエピローグで待って待って!?どういうこと!!????ってなんか辻村ワールドに完全に飲み込まれて、いったい今僕は何を見せられたんだ!?って半ば放心してる間に終わってしまうのですよ…。
だからね、ある意味本当に楽しめるのは2回目以降で…全部分かったうえで読むとささやかなセリフ一個、ちょっとした描写、出てきた登場人物たちが何者なのかも含めて…全く見え方が変わってしまうという…ほんとね、とんでもない作品なんですよね…。
そしてそんな要素を含みながらも、高校生たちが必死に自分たちの考えたイベントごとをこなし、一人ではできないことを成し遂げながら一歩一歩進んでいく姿が瑞々しい一冊でもあるのだ。

好き。
とりあえずもう、めっちゃ好き。
辻村深月ワールドがとにもかくにも好き。

いやマジで、個人的にはシリーズとも続編とも書いてないくせに、以前の刊行物を読んでることが前提の話って嫌いなんですよ…というか過去マジで何度かそれで読む気を失くした作者さんがいてるんですが…。
ちょっと、辻村深月ワールドに関しては、ちょっと衝撃が強すぎて…いや、この名前探し~ももしエピローグがなかったとしても十分成立してしまうっていう構成力もあって、とにかくもう圧倒されてしまったというのが正直なところかもしれないですが。
…ほんとね、改めて読み返すと、いったいいつからこれを仕込んでいたんだろう?ってマジで疑問なんですが…。
『子供~』の時点で秋先生は『メジャースプーン』の能力を使ってる記述があるし、『メジャースプーン』を読み返したら「ぼく」の名前は一度も出てこないし…『凍りの~』は『メジャースプーン』と同時期であることは明確だし…まってもう、いつから、どこまで仕込まれていて予定されていたのか…。
どの時点でどう組まれていて、それをきちんとそれぞれ仕上げて刊行されてることふくめて、辻村深月先生…凄い。

好き。
とりあえずもう、めっちゃ好き。
辻村深月ワールドがとにもかくにも好き。(二回目)

ははは、マジ久しぶりにどっぷりワールドにつからせていただいている…。
とりあえず短編集二冊読んで…これは『島はぼらと』『家族シアター』『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ』まではいかないと…。
あぁぁぁ…新刊の積読がたまっていくぅぅぅぅ…

こんな本もオススメ…っていうか、先に読んでおこう!


・辻村 深月『子どもたちは夜と遊ぶ』

.・辻村 深月『ぼくのメジャースプーン』

・辻村 深月『凍りのくじら』

ある程度辻村深月ワールドを堪能したら伊坂幸太郎ワールドも再読したいかもしれない…でも積読がヤバい…。

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