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読書感想『水やりはいつも深夜だけど』窪 美澄

そのカタチのいびつさの責任を取って欲しくない

セレブママとしてブログを更新しながらも、自分の周りの評価におびえている主婦。
仕事にまい進しているうちに妻とその両親から疎ましがられてしまっていた会社員。
自分の娘が発達障害ではないかと疑い、ありのままを受け入れられない自分を責める母。
母親になって変ってしまった妻に距離を感じ、浮気をしそうになる男。
父親の再婚でやってきた新しい母親に戸惑う女子高生。
母親を責める祖母を嫌だと思いながらもどうすることもできない男子高校生…。
家族なのに、家族だから、分かり合えない分かり合いたいそんな歪さの中でもがく短編集。


文芸書の時に読んだのだが、文庫で一話追加されていたので再読。
これから読まれる方は文庫で読まれる方がお得かもしれない。
全話を通して描かれるのは、あり触れた、どこにでもありそうな壊れかかった家庭である。
血のつながりのある親子でも分かり合えていない現実にくわえ、赤の他人が一緒になって築いた夫婦において起こる摩擦を正面から書いている。
特に文庫で書き足された最後の男子高校生の陸が、自分の歪な家族に対して「慣れるしかない」と言ってしまうところに胸がきゅっと苦しくなる。
自分たちでお互いを選んだ夫婦とは違い、その家庭に生まれてしまった子供の表現としてなんて心苦しいんだろう。
描かれる壊れかけた家庭の彼らは、自分の家族が憎いとか嫌いとかでは全然なく、むしろ家族のことは好きなのだ。
けれどもどこかですれ違いきしんでしまった歪な部分からどこか目をそらしているような、避けてやり過ごそうとしてしまっている雰囲気がさらに家族を歪にしてしまっている。
人の家庭の話だから、と外から見ている分にはもっとしっかり話し合えよ~とかいやその行動の前にやることが…と簡単に考えられてしまうのだが、実際自分がそうだと同じように立ち尽くしてしまうんだろうなというのも想像がついてしまうのも辛い。
どの話も少しは状況が好転するかな?と思わせる最後ではあるけども、良かった!とにっこり笑える終わり方はしないので切なさが残ります。
自分と重ねて共感してしまうのも、これはダメなんだなって反面教師にするのもありじゃないかと思う一冊。
派手な事件が起こるわけではないだけに、なんだかとってもリアルな家族の話でした。

こんな本もオススメ。


・宮西真冬『誰かが見ている』

・寺地 はるな『 水を縫う』

・彩瀬 まる『かんむり』

一番近くて、自分ではない人たちのコミュニティーだからね、家族って…近すぎて境目を見失うのよね…。
自分じゃないからわからなくても当たり前なのに、家族だからわかってて当たり前みたいにどっかで思ってる…。

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