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読書感想『楽園の楽園』伊坂 幸太郎

人は、どんなものにも物語があると思い込む

大規模な停電が起こり、災害が起き、未知のウイルスが蔓延し、逃げ出す人々を乗せた飛行機が落ち…
次々に起こる未曽有の事態に人類は混乱に陥った。
そのすべての原因は、『天軸』というAIの暴走にあるという…
『天軸』の製作者である〈先生〉は所在不明、手掛かりは先生の残した『楽園』という名前の絵画のみ。
五十九彦(ごじゅくひこ)、三瑚嬢(さんごじょう)、蝶八隗(ちょうはっかい)の選ばれし3人は『天軸』と先生を探す旅に出る。
やがて楽園にたどり着いた彼らを待っていたものは…。


伊坂幸太郎先生デビュー25周年を記念した書下ろし短編である。
短編を彩るフルカラーの挿絵、表紙は黒地に緑の箔押しという、なんとも美しい一冊なのでぜひ紙の本を一度手に取って欲しい。
凄く個人的に箔押しの少し凹んだ質感大好きなのでついつい表紙をナデナデしてしまったり…。
伊坂幸太郎先生は過去にもDVD付きの本も出されていたりと結構実験的なことをされるので25周年の記念の一冊としてとても素敵な一冊である。
興味のある方はDVD付きの「実験4号:後藤を待ちながら」もぜひ(笑)

いや、それは全然この本とは関係ないんですが…w

人類を混乱に陥れたのはAI『天軸』ではないのか?という推論のもと、『天軸』があるとされる『楽園』へ選ばれた三人が向かうのだが…
西遊記と聖書をモチーフに、人類の終焉を伊坂節で描くという…何ともらしいというか、伊坂ファンにはたまらない短編である。
あえて言うなら、いやあああアコレ長編でも読んでみたいいいいい‥‥!!!というファン心理ですかね。
あぁそうか、人類の終焉を、AIの暴走を伊坂先生が掘り下げるとこういうところに落ち着くんですね。
過去作の「あるキング」とか「SOSの猿」を思わせる雰囲気もありながら、しゃべるかかしの話が出てきたりとなんかほんと記念の一冊といった感じで…。
世界の状況は切迫していてる割に、どこか飄々と軽くて真剣みに欠ける三人にニヤニヤしながら読んでました。
短編でサラッと描かれている魅力を感じながらも、短編でサラッとやっちゃうにはもったいない気もする一話で、個人的にはとっても楽しませていただいた。
んで本当に、綺麗な本なのよ…。
これは所有欲が沸いちゃう本ですわ(いや、そうでなくても所有欲にまみれて本に埋もれて暮らしてるんですけども…)
25周年おめでとうございます、これからも紡がれるお話を心待ちにしています。

こんな本もオススメ


・西加奈子『まく子』

・小川 洋子『耳に棲むもの』

・千早 茜『眠れない夜のために』

絵本ではないんだけど…挿絵にもきちんと意味がある本ってやっぱり紙で持ってたいし、定期的に眺めたい…。

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