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読書感想『PRIZE―プライズ―』村山 由佳

どうしても欲しい。直木賞が―――

ラノベ新人賞でデビューして以来、人気作家として君臨してきた天羽カイン。
本屋大賞に輝き、映像化作品も多く、新作を出せばベストセラーになる、現代には数少ない売れる作家である彼女。
しかし、天羽カインは同じ作家が選ぶ文学賞を獲ったことはなく『無冠の女王』とも言われていた…。
いったい私の何がいけないのか?
文壇から正当に評価されていないと感じる天羽カインは、何としてでも直木賞を獲るために全身全霊を注ぎ込む。


直木賞に何度かノミネートするものの、酷評され受賞することが叶わず、そのたびに傷ついた天羽カインがなりふり構わず直木賞を獲りに行くという…え?文壇エンタメ??
いやぁぁぁぁ…こ、ここまで赤裸々に現代の出版業界の歪みとか賞レースの裏側を書き連ねても大丈夫なんですか?って心配になってくるリアルさで、めっちゃ面白かった…。
天羽カインは本を出せばベストセラー、文芸書でも重版がかかり、サイン会を開けば長蛇の列を作れる人気作家である。
彼女にはその自負も、自分が書いた小説への多大な自信もある。
…というか、ありすぎる、ありすぎて…自分が認められないことへの拒絶反応が強烈で、ぶっちゃけ最初、全然天羽カインの味方になれないまま読んでた(笑)
編集関係者に当たり散らし、自分の作品に対して売る努力がそもそも足りてないってキレちらかすので…おぉうん、そういうところでは…あなたが評価されないのはその自分の作品への自信過剰すぎる点では…謙虚さが皆無…と若干引きながら読んでみたり。
いやぁ…特に序盤ね、彼女の矜持は振りかざされるんだけど彼女がどうやって物語を書いてるかとか、ほかの作家をどう見てるかの描写がほぼないのでただひたすらに自信過剰でブチ切れてるように見えてしまって…
自分の作品愛が強いために同じ熱量を返せない編集者にブチ切れて、連載作品の単行本化の際にその原稿を引き上げてしまうことで話は大きく動き始める。
自分の作品と真剣に向き合い、自分と同等の情熱を注げる編集者でないと作品を任せられないと感じた彼女は、自分のファンであるという若き編集者・緒沢千紘に白羽の矢を立てる。
二人三脚で、真剣に直木賞を獲りに行く彼女たちの物語はやがてとんでもないところへ転がっていくのである…。
作品を作り上げようとする天羽カインが描かれだすと、自分の作品への自負が覗きながらも、直木賞を獲るために何とか自分をもう一段上の作家へ成長したいという貪欲さが顔を出す。
自分の書いた作品をもっと良くして文壇に認めさせたい彼女は、若き編集者の助言に気分を害しながらも一考し、作品に手を入れていくのである。
作家だけでは本は完成せず、編集だけでは物語が生まれてこない様が凄まじく、二人が作品を作り上げていく姿にどんどん引き込まれ、モデルがわかる文壇の重鎮たちにニヤニヤしながら、さぁ、直木賞を獲りに行くんだ、って思ってたら徐々に様相が変わりだし…と、最後まで物語は予測不能
あぁぁぁぁぁ…、めっちゃ面白かった…。
凄いな、小説業界の賞レースもこんなエンタメになるんだな…。
人気があり実力もあり、作家としての矜持があるからこそ、強烈な天羽カインの引力に最初から最後まで振り回される一冊である。
最後まで読めば、その強烈さも天羽カインの魅力になるのも凄い…いや、ちょっと強烈すぎるけどwww
選考委員全員合わせても私の発行部数にかなわないって言った時にゃ、この人無理~って思ったんですが(笑)
いや凄かった。
めっちゃ面白かった…。
ちょっと直木賞の印象まで変わってしまう一冊でした。

こんな本もオススメ


・辻村 深月『ハケンアニメ! 』

・馳星周『フェスタ』

・綾崎 隼『この銀盤を君と跳ぶ』

自分の力だけでは手に入らないもののために、でもできることは努力だけだっていうのがヒリヒリする本たちですね…
あとこの天羽カイン先生って…モデルはあの方かな…って思っちゃうのは…僕だけですかね…??

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