読書感想『罪びとの手』天祢 涼
廃ビルで中年男性の遺体が発見された。
身元不明のまま事故死として処理されようとされた最中、遺体を引き取りに来た葬儀屋・御木本悠司がこの遺体は自分の父親だと言い出した。
元々遺体の状況に事故死ではなく他殺を疑っていた刑事・滝沢圭は、その偶然を怪しみ独断で捜査に踏み切る。
御木本悠司の行動に不審なものを感じながら捜査を始めた滝本だったが、捜査を進めるうちにもう一つ別の事件の影が見え隠れしだし…
果たして死体は本当に幸大なのか?
悠司は何を隠し、何をしようとしているのか?
火葬まで96時間…タイムリミットが迫る中、刑事と葬儀屋の矜持がぶつかる社会派ミステリー。
文庫になったので久しぶりの再読…なんとなく真相は覚えていたものの記憶はだいぶおぼろげだったのでめっちゃ普通に楽しんだり…。
絶対にどんでん返しを仕掛けてくることで僕の中で定評のある天祢先生のミステリーである。
今作では、見つかった遺体の身元に加え、遺族の不可解な行動の理由、未解決の少女連続刺殺事件が複雑に絡み合いながら、同時に父親と息子がテーマになっている。
滝本は刑事、悠司は葬儀屋、と職業の違いはあるのだが彼らはそれぞれ父親に憧れを抱き、父親と同じ職業に就いているのである。
父親が自分たちに教えた刑事としての在り方、葬儀屋としての矜持が彼らの行動に深く関わっており、それがやがて事件の真相を突き止めるとっかかりになるのである。
天祢作品の凄いところは,ちょっと盛りすぎなのでは?と思いそうな設定の数々がこの一冊できちんと解決し完結していくところだと思っている。
今作も気するところが多いのよ(笑)
まず遺体は本当に御木本幸大なのかを気にしながら、悠司の考えてることが意味不明すぎて不信感を募らされ、滝本圭の暴走気味な捜査の根底にある父親との確執の話が展開し、未解決の少女刺殺事件の真相に迫り、同時に生前幸大に関わった葬儀屋の家族の問題から、悠司の部下の淡い恋心まで…と次々に追加情報が展開していくのだ。
んだが、それが全部きちんと伏線となって最後の真相に集結していくので、あぁあのエピソードもこの感情も必要だったのね!?と納得させられるのだ。
最初に読んだ天祢作品がコメディタッチの『都知事探偵・漆原翔太郎』だったので余計にその作風の幅広さに驚くのと、コメディだろうと社会派だろうとそれこそファンタジーだろうと最後の章できちんとすべてが終息する構成力に思わず唸る作家先生なのである。
(…個人的に今でも翔太郎と雲井くん大好きなので、笑えるミステリーがお好きな方には全力でおすすめしたい…なんならいつかまた二人のドタバタが見たい…これ書いてる時点ではKindle Unlimitedメンバーシップに含まれてるからとりあえず気軽に読んでみて欲しい…ていうか僕が読む気でレンタルしてる←家に単行本あるくせに…)
って、めっちゃ話ズレとる…
周りに不審がられながらも盛大な葬式を執り行おうとする悠司、その悠司に不信感を抱きながら捜査を進める滝本…そして炙り出される真相は予測不能…という読みごたえばっちりの一冊である。
最近葬儀社物の小説自体が増えていて、結構色々読んでるけどもその中でも特殊な一冊だっと思っている。
不穏な最初から、予測不能な最後まで思わず一気に読んでしまうこと必死なので気になってる方はどうぞ手を出してほしい。はー満足。
こんな本もオススメ
・町田そのこ『ぎょらん』
・平野啓一郎 『ある男 』
・葉真中 顕「絶叫」
必ず人は死ぬのだが…死んで初めて「その人」を深く分析されるのかもしれないですね。