読書感想『逃亡犯とゆびきり』櫛木 理宇
色んなペンネームを使い分け、エロ記事やお笑い記事を書いて細々と生計を立てているフリーライターの世良未散。
未散の元に「女子中学生墜落死事件」の執筆依頼が入る。
社会派のルポを書きたいと願っていた未散はその依頼を快く受け、15歳で転落死をした清水萌香について調べ始める。
「117人に殺された」と遺書が発見されるも、スマートフォンが見つかっていない彼女の死は他殺も疑われ、誰もが振り返るような美少女でありながら学校では孤立していた彼女についてのルポは無事に前編が掲載された。
その掲載雑誌が発売された日、未散のスマートフォンに登録されていない番号から着信が入る。
それは高校時代の親友で、今は4人の男女を殺したとして指名手配されている古沢福子からだった…
未散がフリーライターになる基礎を授けてくれた古沢福子…逃亡班として追われる彼女はそれ以来ちょくちょく電話をしてくるようになる。
福子は何故殺人を犯したのか…そして、何故電話をかけてくるのか…その疑問をいだきながらも未散は彼女の電話を待つようになってしまう。
やがてそれは、思わぬ事態へ未散を導いていく…
フリーライターとして、過去の事件のルポを書く未散と、そんな彼女の高校時代の親友でありながら卒業と同時に没交渉となってしまった殺人犯・古沢福子。
未散のスマホに福子が短い電話をかけてくることで物語は進んでいく。
聡明で知識が広く観察眼に優れた福子が、未散の追いかけている事件について未散一人ではたどり着けなかった真相へのヒントをアドバイスすることで真実が炙り出されていくのである。
基本的にはすでに終わった事件が、福子のアドバイスによって全く見え方が変わってくるのを未散が暴いていく小話の連続によって成り立っている。
福子のしたいことが若干わからん…と思いつつ、一個一個の事件が面白くて読み進めたら、ちゃんと目的があったことが明かされて最後まで楽しく読ませていただいた。
未散と福子はそれぞれに家族に恵まれず、辛い幼少時代を過ごしていた…だからこそ、深く強く結びついている二人が暴く事件の真相には、まともとは言えない家族の問題が付きまとう。
家族間での支配や、男女格差、うまくいかない親子関係に、嫁姑問題など…事件の概要からだけでは見えなかった問題が炙り出されていくのである。
いやぁ、面白かった…。
短い事件の連続なので読みやすく、その上で一つ一つの事件の真相がグロテスクで引き込まれる。
んで、福子は何がしたいのよ?な疑問も思わぬところへ転がっていき、あー最初から最後までこっちまで福子の思うつぼでしたか!?な終わりで最後まで面白かった。
事件の合間合間に福子の犯した事件も挟まれ、一体彼女に何があったのかにもずっと引き込まれました。
さらっと読める割に密度の濃い一冊でした。満足。
こんな本もオススメ
・武田 綾乃『嘘つきなふたり』
・宮西 真冬『彼女の背中を押したのは』
・柚木麻子『BUTTER』
相手をしっかり理解したうえでないと見えない真相が描かれてるのって読みながらこっちも解像度が上がっていく面白さありますよね。